入社2カ月18歳の自死 遺族、10年を機に写真展 障害者雇用の今を問う 湖西で17日から
10年前の2014年5月、軽度の知的障害があり、障害者雇用で就職したばかりの若者が自ら命を絶った。浜松市中央区舞阪町の鈴木航さん=享年(18)=。その後の裁判で、鈴木さんは職場で自身の能力に比べ負担の重い仕事が与えられ、その心理的負荷が自死につながったとみられることが判明した。遺族は「航の死から10年たち、障害者が働く環境が本当に整ってきたのかを問いかけたい」と、17日から生前をしのぶ写真展を湖西市で開く。 小学4年で軽度の知的障害と学習障害の診断を受けた鈴木さん。高校まで通常学級で学んだが、読み書きが苦手で会話の内容を正確に把握できないこともあった。一方、何事も一生懸命な性格で、学校は12年間皆勤賞。高校まで続けた野球では倒れるまで練習したこともあった。高校卒業後、県西部の自動車部品メーカーに就職し、新人研修を終えプレス作業の現場に配属された約2週間後、通勤中の駅で電車に飛び込んだ。 背景を知ろうと遺族は15年、損害賠償を求め会社を提訴した。18年に静岡地裁浜松支部が出した判決は「業務への心理的負荷が自殺を招いたと推測される」と認めた一方、会社側に自殺の予見可能性がなかったとして請求を棄却した。遺族は納得できない思いもあったが、訴訟の精神的、経済的な負担が重く上訴を断念。現在は国に労災不認定の処分取り消しを求める裁判が続いている。 訴訟を通じ、入社前に母親が人事担当者に障害特性を説明した資料が配属先に共有されなかったことや、危険で複雑な作業工程に分かりやすいマニュアルが存在しなかったことなども判明した。遺族は今も、障害特性を踏まえた適切な仕事の配分や支援があれば、真面目で熱心な鈴木さんが会社の戦力として活躍しただろうと考えている。父英治さん(59)は「学校を出て初めて経験した世の中は、航にとって生きにくい社会だったんだな」と無念をかみしめる。鈴木さんが生きた事実や抱えた悩みが社会の中で忘れられないよう、写真展開催を決めた。 祖母のレース編み 孫への思い表現 写真展では、鈴木さんの人生を記録した写真に祖母の田中静子さん(83)が長年続けてきたレース編みの作品を添え、孫への思いを表現する。17~19日午前10時~午後4時、湖西市新居町のカフェ「きんたろう」2階ギャラリーで。入場料はドリンク付き500円。駐車場が小さいため、乗り合わせを呼びかけている。
静岡新聞社