急転直下の松下信治起用……TGM Grand Prixの決断の裏に何が? スポンサーも増え、開幕に向けて機運上昇
スーパーフォーミュラ開幕直前の3月5日、TGM Grand Prixが未定となっていた55号車のドライバーをようやく発表した。選ばれたのは松下信治。ドライバー候補はラウル・ハイマンひとりに絞られたと思われていただけに、驚きの人事となった。 【動画】レーシングカーに感情が!? スーパーフォーミュラを活用した“人工自我”研究の進捗を東大が発表 まず、TGM Grand Prixのシートを巡るここまでの流れを整理する。レーシングチームのメンテナンスなどを手掛けるセルブスジャパンを母体として昨年発足したTGM Grand Prixは、資金的な後ろ盾やメーカーからの直接的なバックアップのないプライベートチームであり、同チームのシートを狙うドライバーには資金やスポンサーの持ち込みが必要となる。昨年は大湯都史樹とジェム・ブリュックバシェを起用したが、大湯が最終ラウンドを欠場したのも金銭的な要因が絡んでいるとの見方が有力だ。 そして2024年シーズンに向けては、年明けに女性ドライバーのJujuを53号車のドライバーに起用することが発表された。その一方で、55号車のドライバーは未定のまま時が過ぎ、2月の開幕前テストではラウル・ハイマンを起用したものの、それがレギュラー契約に繋がるかどうかはテストでのパフォーマンスを彼のスポンサーが判断してから……という状況であった。 いずれにせよ、ハイマンとの契約が成立するかどうかが焦点と見られていたが、最終的にTGM Grand Prixは松下の起用を発表した。松下は昨年12月のテストで55号車のドライバーを務めたが、その際本人はシート獲得はかなり難しいとほのめかしていた。 この数週間でどのような動きがあったのか? これについて池田和広代表に聞くと、彼は次のように語った。 「ハイマン選手はスポンサーを納得させることができなかった、つまりスポンサーを集めることができなかったので、(55号車に乗る)ドライバーが誰もいなくなってしまった……というのが先週の金曜日(3月1日)の状況です」 「ただ自分としては、2台で出るという約束もして契約もしているし、エントリーも済ませています。それで出ませんというのは、そんなカッコ悪いことはないですし、うちが出ないことで被害を被る方も出てきます。自分たちも含めてですね。ならやらなきゃいけないよなと」 「自分の気持ちも切り替えもありました。ハイマン選手の線がないとなった時に『自分が楽しまないといけない』と。ネガティブにならず、待つだけではなくどんどんやっていけば、結果もお金もついていくんじゃないかと思いました」 「じゃあやりたいことは何かというと、ぶっちぎること。ポールトゥウィン、完全勝利です。それを目指す上で一番の適任だったのが、松下選手だった訳です」 決断の経緯について、そう語った池田代表。彼の言葉の端々からも分かる通り、松下の参戦にあたっては現時点で金銭面がオールクリアになっているわけではない。それを示すように、今回の鈴鹿戦ではハイマンもチームに帯同している。「彼も席を狙っていますし、資金を集めることができれば、彼にもチャンスが巡ってきます(池田代表)」とのことで、特にリザーブ等の役割があるわけではなく、チームが帯同を許可しているという形のようだ。 ただその一方で、松下の起用を決断した後でチームにはスポンサー契約が複数舞い込んでいるとのこと。「ガンガンいく」という池田代表の吹っ切れた姿勢が“ツキ”を呼び込めているようだ。 開幕戦鈴鹿に向けて搬入されたTGMのマシンには、新しいスポンサーロゴが確認できる。エンジンカウルにある『JALOX』は国際物流の総合商社だという。さらにJujuがドライブする53号車も、とりわけスポンサーフィーが高額とされるサイドポンツーンが当初は空白となっていたが、今回から健康食品の販売などを手掛けるフォーデイズのロゴが入れられている。 「不思議なことに、やると決めてから、3件、4件と(スポンサーの)話が来ました」 「不思議だなと思います。金額も決して小さくありません。自分がやる気になってガンガン行くしかないなと思わされました」 「自分自身の気持ちとしては、松下選手で全戦行くという気持ちです」 開幕に向けて、話題を振りまき続けているTGM Grand Prix。待望の“勝利”に向けて池田代表は「見ててください!」と力強く語った。
戎井健一郎
【関連記事】
- ■開幕ダッシュを決めるのは誰だ! いよいよ始まる2024スーパーフォーミュラ、テスト好調は牧野任祐……第1戦も似た気候に?
- ■TGM Grand Prix、55号車のドライバーは松下信治! 開幕直前の土壇場で決定……Jujuのチームメイトに
- ■今後さらなる猛者が、日本にやってくる……F2王者プルシェール確信「悲しいけど、結果だけではF1に行けない」
- ■崖っぷちから掴んだ“未来”。スーパーフォーミュラ昇格の木村偉織が明かす「SFライツでチャンピオンを獲れなかったらここにはいなかったと思う」
- ■“日本育ち”のカナダ人エンジニアがスーパーフォーミュラにカムバック。WECトヨタで共に戦う小林可夢偉も絶賛する逸材「8号車のドライバーが初めて『良い!』と言った」