高橋優インタビュー「幸せじゃないから音楽があって良かったなって思えるというか。でもどうなんでしょうね。皆さんは」
言葉がちゃんと聴こえてくる曲を書きたい
――「キセキ」は「news23」のエンディングテーマとして書き下ろされたわけですが、純粋な創作の出発点としては、どういうところからだったんですか? 実はこの曲の種になっているものが、かなり前からあったんですよ。メロディラインとか、漠然とでしたけど春夏秋冬のことを歌うっていうモチーフのようなものがずっとあって。それを長いあいだ曲にしていなかったんです。で、今回タイアップのお話をいただいたときに、これがいいかもしれないと思って、あたためていたモチーフに肉付けしていったという感じです。だからさほど難航もせずにできましたね。おそらくずっと頭のどこかで考え続けていたんでしょうね。例えば曲の冒頭の部分、当たり前に思ってることを当たり前に伝えるのって難しいよねっていう感じとか。 ――季節の移ろいがモチーフのなかにあったというのは、そこにどんな思いなりイメージがあったのでしょうか? 10年くらい前にこの曲の種を思いついたときは、単純に美しい曲を書きたいって思ってたんですよ。で、そのときから時間が経って、改めて春夏秋冬を思ったときに、感じ方が少し変わっていたというか。要するに春夏秋冬がなくなってきているなっていう実感をより強く持つようになっていたんですよね。だから春夏秋冬が出てくる部分はあえて歌詞を変えずに2回使っているんです。 ――なるほど。 みんな、あんまりそこを声高に言ったりしないのを不気味に思うくらい僕はずっと引っかかっていて。四季の違いがはっきりしていたのが日本の良さだったのに、このまま季節の境目が曖昧になっていったり、それに伴って豪雨とかそういう問題に直面することが増えていったらいったいこの先どうなっちゃうんだろうって不安になったりするんですよね。あと何十年後かに「春ってなんだっけ?」みたいなことになったら嫌じゃないですか?(笑)。そう考えると、デビュー前につくった「こどものうた」もそうだったんですけど、あのときみたいに、え!?っていうようなニュースを見て書き出したっていうテンションと変わらないんですよね、この曲も。今はまだかろうじて春夏秋冬はあるけど、とか、大切な人は今、目の前にいるけど、とか、その何もかもが今しかないとしたらどうする?っていう……危機感とも違うんですけど、なんだろう、何かあるんですよね、そこに対して。 ――そうした思考に対してメロディはどういうふうにアプローチをしていったんですか? かなり考えて今ある形になっているんですけど、どっちかっていうと喋っているのに近い感覚というか、言葉がちゃんと聴こえてくる曲を書きたいって最近改めて強く思っていて。歌詞カードを見なくても歌詞が聴き取れる曲って今どれくらいあるんだろう?って、たまに思うときがあって。もちろんいっぱいあるんでしょうけど。個人的な思いとしては、歌詞が耳からちゃんと届く曲を書きたいなって思いました。だからメロディに関しては、あんまり緻密にしすぎたり、譜割を複雑にしたりすると言葉って届くのが難しくなるから、できるだけメロディラインもシンプルにすることを心がけました。だからサビのメロディ――ここが春夏秋冬の部分なんですけど――いつかみんなで歌えるっていうイメージがあるんですよね。 ――アレンジもそのような考え方に基づいているんですか? アレンジャーは宗像仁志さんで、これまでで言うと、「ever since」とか「PERSONALITY」とかのアレンジをやってもらっていて、どっちもバラードチックではあるんですけど、一癖あるアレンジをしてくれるんですよ。で、「キセキ」のような曲を宗像さんがアレンジしたらどうなるんだろうって思って、宗像さんに「スタンダード・バラードにしてください」って注文させていただいたんです。アレンジに対して、僕はかなり細かく注文することが多いんですけど、今回は高橋スタンダードと宗像スタンダードの合作といった感じですね。 ――でも、スネアドラムの小刻みな感じとか、ちょっと普通じゃないところはありますよね。 そうなんですよ。宗像さんのそういうところが好きなんですよね。 ――「キセキ」は現在行われている弾き語りツアーでも披露されていますよね。よりシンプルな形で届けることは、この楽曲の成り立ちや思いをお聞きした後では、必然だったのかなと思うのですが、そのあたりはいかがですか? そうですね。ただ、新鮮ではありましたね。リリース前からツアーでは披露していたので。初めて聴く人ばかりの前で、どんなふうに演奏しようかなって結構考えたりしました。 ――最後に、9月21日(土)・22日(日) の2日間にわたって開催される「秋田CARAVAN MUSIC FES」についてお聞きします。改めてこのフェスは秋田県内にある13の市をめぐるキャラバン方式のフェスになっているわけですが、能代市で開催される今回で7回目を迎えます。半分過ぎましたね。 まだまだですね。途中コロナで2年間中止になったりしましたから、これからも何があるかわかりませんが、最後までやり遂げたいですね。 Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子 スタイリスト:上井大輔 ヘアメイク:中込奈々(Octbre.)