「強権」を続けるしかないプーチン大統領の「劣等感」と「恐怖心」
民主化できないロシアは強権でいくしかない
宮家)劣等感の裏返しですよね。ただ、私はお手紙にも書きましたが、中国だって怖い国ですよ。「やはりロシアは中国に少し譲歩しているのですか? 二流国になってしまったのではないですか? ロシアの誇りはどこへいったのですか?」というような内容を書いてしまいました。中国とはあれだけ国境線が長いですから、ロシアは本当は怖いのだと思います。 飯田)そうですね。 宮家)しかし、今はそれどころではない。北大西洋条約機構(NATO)と対峙していて、「NATO、何するものぞ」と思っている。東欧の国も含め、西側諸国は民主化して自由を享受しているわけです。でもロシアは、何回やってもそれができないから、強権でいくしかない。プーチンは良きにつけ悪きにつけ、愛国者ですよ。古き良きロシアを何とか維持し、再興したいと思っているのでしょう。
ウクライナが獲られてしまったら、「NATOは目と鼻の先」という恐怖心も
宮家)彼の理想はピョートル大帝ですよね。お手紙でも「あのピョートル大帝と同じくらいの快挙ですね」とお褒めの言葉を申し上げました。あれくらい悪い奴だという意味です。ロシアは南方にもあれだけ領土を拡大したのですから。 飯田)やはりモスクワやサンクトペテルブルクにいると、西からの圧力が怖いため、バッファーゾーン(緩衝地帯)をつくりたくなるのかも知れない。 宮家)ソ連崩壊で、300年かけてつくった東ドイツまでの緩衝国がなくなり、身内だと思っていたウクライナも西側に獲られそうになってしまった。ウクライナがNATOに入れば、モスクワは目と鼻の先になるので、強い恐怖心があるのでしょうね。劣等感と恐怖心の塊です。しかし、プーチンはきわめて伝統的、かつ強力な独裁者であり、「やはりロシアの統治はこれしかないのか」という感じがします。
力によって安定を求めるしかないロシア
飯田)ウクライナへの侵略は2年を超え、ロシアは世界を敵に回している状況ですよね。 宮家)逆効果になっています。わかってはいるけれど、やめられないのです。可哀想な人ですね。 飯田)ここでやめると、やはりロシアの政権は揺らぐのでしょうか? 宮家)やめたら弱さが先に出て、おそらくロシア人は彼を見捨てるのでしょうね。 飯田)強いリーダーを求めているのですか? 宮家)そうだと思います。日本は安定が嫌いではありませんが、彼らは日本人以上に安定を求めています。 飯田)ロシア人はその安定を、力によって求めるところがあるのでしょうか? 宮家)それしかないのです。日本は島国で海に守られていますが、陸続きで周りにはおかしな奴しかいないとなると、緩衝地帯を広げていくしかありません。 飯田)かつてモンゴルに攻められた記憶などがDNAに刻まれているのでしょうか? 宮家)そうですね。地理的環境の影響は大きいと思います。