世界経済の「分断化」、実はインフレ長期化の要因では…ウクライナ危機以降に深刻化とIMF
国際通貨基金(IMF)が4月16日に発表した春季の「世界経済見通し(World Economic Outlook)」は、2024年の世界経済(実質GDP)成長率を前回の予測値から0.1ポイント引き上げ、3.2%とした。 【全画像をみる】世界経済の「分断化」、実はインフレ長期化の要因では…ウクライナ危機以降に深刻化とIMF 今回の見通しには、「安定かつ緩慢:まちまちな様相の中、強靭性も(Steady but Slow: Resilience amid Divergence)」とのサブタイトルが付された。 インフレの高止まり、欧州および中国の低迷、二つの地域にまたがる戦争の継続など逆風が吹き荒れているにもかかわらず、大崩れすることなくパンデミックからの回復、その先の成長へと向かう世界経済の近況を端的に表現していると、筆者は感じた。 ただし、大崩れを回避できている主な要因は、アメリカの底堅い経済成長であることには留意しなくてはならない。 アメリカの2024年の成長率は2.1%から2.7%へと(1月発表の前回の世界経済見通しから)3カ月で0.6%ポイントも引き上げられている。 それに対し、ユーロ圏の成長率は0.9%から0.8%へとマイナス0.1%ポイント、日本は0.9%で横ばい、中国も4.6%で横ばいと、アメリカ以外の国々は世界経済の見通し上方修正にはほとんど貢献できていない。 身も蓋もない言い方だが、アメリカだけであれば「安定」ですっきり説明できるところを、他国の状況も勘案すると「緩慢」を付け加えざるを得ない、そんな世界の実情がある。
やはり「スローバリゼーション」に向かう世界
1年前、2023年4月の世界経済見通しでは、地政学リスクを背景に海外直接投資の流入する国と流出する国の「分断化」が進み、世界全体として見た時にアウトプット(生産量)が減っていくとの問題意識が示された。 そうした展開は言ってみれば「グローバリゼーション(globalization)」の「スローダウン(Slowdown)」であり、IMFは造語を使ってそれを「スローバリゼーション(slowbalization)」と表現した。 今回の見通しではスローバリゼーションという造語こそ使われていないものの、最初のコラム(Box 1.1)に「分断化は国際貿易にすでに影響を及ぼしつつある(Fragmentation Is Already Affecting International Trade)」と題した分析が登場する。 同コラムの共同執筆者、アンドレア・プレスビテロ氏(IMF調査局シニアエコノミスト)とペティア・トパロヴァ氏(同アドバイザー)はまず、世界経済を二つの仮想ブロックに分けた。 一つはオーストラリア、カナダ、EU(欧州連合)、ニュージーランド、アメリカから成るブロック、もう一つは中国、ロシアおよび2022年3月の国連総会でロシア側についた(=非難決議に反対した)国からなるブロックで、それぞれについてロシア・ウクライナ戦争の前後での貿易変化率を算出し、減少幅を比較した【図表1】。 上の図表に示したように、貿易全分野(青の棒グラフ)の変化を見ると、ブロック内(左)とブロック間(右)の減少幅には倍以上の開きが見られる。 ロシア支持の国々と西側諸国の間での貿易は、それぞれのブロックに属する国同士の貿易以上に大きく落ち込んだことになる。 また、同じ変化を戦略分野(機械や化学製品など、橙の棒グラフ)だけに限って見ると、両ブロック内の貿易の変化率はマイナス1ポイント以下とほぼ変化が見られないのに対し、ブロック間のそれは大幅な減少を記録している。 ロシア支持の国々と西側諸国の間での貿易の冷え込みは、戦略分野において特に顕著というわけだ。 なお、上記のコラムは米中間の貿易関係が弱くなっていることにも特に言及している。アメリカの輸入総額に占める中国のシェアは2017年の22%から2023年の14%へとおよそ8ポイント減少したという。 2017年を比較の起点としているのは、トランプ政権発足後に米中対立が包括化、加速した経緯を受けてのものだ。 同コラムは、アメリカが中国に有していた拠点が2017年から2022年の間にメキシコやベトナムなどと再配置された結果、サプライチェーン(供給網)が間延びし、効率性が低下した可能性があるとも指摘する。 筆者は2023年4月のBusiness Insiderへの寄稿で、以下のように分析している。 「企業が海外直接投資のリロケーション(再構築)の検討を進める中で、企業が本拠を置く国(多くは先進国)と政治的に距離がある国(多くは新興国)は、直接投資の流出に見舞われやすくなる。専門家でなくとも直感的に想像される展開ではないか。 結果として、海外直接投資が『流入』する国と『流出』する国の分断化が進み、世界全体として見た時にアウトプット(生産量)が減って貧しくなっていくというのが(2023年春季世界経済見通しの)第4章で展開されるIMFの問題意識だ」 IMFの1年前の懸念通り、世界経済の分断と減速は進展している、そう評価せざるを得ない現状がある。