少子化対策はスウェーデンの苦闘の歴史から学べ
日本が人口減少と経済停滞にいかに対処するかを考える際に、スウェーデンの経験から何を学ぶかが問われている。スウェーデンは手厚い福祉政策と高い経済成長率を両立させてきた国として知られるが、日本ではこれまで、その意義を強調する議論は、どちらかといえば野党やリベラル陣営に多かった。ところが近年では、政府の少子化対策や雇用政策にスウェーデンの影響がはっきり読み取れるのである。 岸田政権が「異次元」の少子化対策の目玉としている所得制限なしの児童手当は、スウェーデンが1948年に少子化対策の基軸として導入したものである。若い世代が結婚して子どもを持てる経済条件こそ重要という指摘に対して、政府は「こども未来戦略」(2023年12月閣議決定)で若い世代の所得を引き上げる重要な手段としてリ・スキリング(教育訓練による学び直し)を挙げた。リ・スキリングを軸とした政府の「三位一体の労働市場改革」も、スウェーデンの積極的労働市場政策とそっくりである。 スウェーデンの少子化対策や雇用政策は、これまで大きな成果をあげ、それゆえにドイツやイギリスなど先進国がこぞって取り入れてきた。岸田政権が先進国に広がったスウェーデンモデルに強く影響されていることは間違いない。四半世紀前からスウェーデンの経験の重要性を唱えてきた私からすると、こうした展開には感慨深いものがある。だが、併せて次の2点を強調する必要がある。
歴史と現状から学ぶ
第一に、スウェーデンの少子化対策は若い世代を支える雇用政策と密接に連携していた。また、納税者の納得感を高める税制や、党派間の合意形成を重視する政治制度を活用してきた。スウェーデンの施策をつまみ食い的に模倣しても、必ずや壁にぶつかるであろう。同国の教訓を日本の政策に活かそうとするなら、その成功が政策と制度のいかなる連携に導かれたものだったかを理解する必要がある。 第二に、スウェーデンの少子化対策は新たな困難に直面している。2010年の1・89から合計特殊出生率が下がり始め、23年には1・45まで低下した。ただしここから「北欧の少子化対策はもはや参考にならない」という結論を導き出すのは早計である。スウェーデンの指導的な人口学者であるグンナー・アンダションらの分析によれば、出生率低下の背景には、労働市場で不安定な立場にある男女が子どもを持たないという傾向がある。就労が安定した層は第二子、第三子ももうけており、この面でスウェーデンの少子化対策それ自体は引き続き機能しているといえる。 であるからこそ、同国の少子化対策の効果を鈍らせている雇用政策の揺らぎはなぜ生じているか、いかなる対処が求められているかを併せてみていく必要がある。岸田政権が若い世代の所得を上げるテコとして、リ・スキリングを軸とした雇用政策を掲げているのであるからなおさらである。 以下では、スウェーデンがそれぞれの歴史的局面で異なる少子化要因にいかなる施策で挑んできたのかを振り返り、今日新たに直面している困難についてもみよう。完成されたモデルを探すより、このスウェーデンの苦闘の歴史から学ぶことが大事ではないか。そのための基本視点を提供するのがこの文章の目的である。