【社説】選択的夫婦別姓 導入に向け国会で議論を
選択的夫婦別姓の導入を国会で議論する素地が、かつてないほど整った。 10月の衆院選で与野党の多くが実現や推進を公約した。選挙の争点として党首討論会で繰り返し議論されたのは、国民の要請でもあるだろう。国会は今こそ、実現に向けた議論を始めるべきだ。 民法は結婚時に夫婦同姓を義務付けている。1996年に国の法制審議会(法相の諮問機関)が選択的夫婦別姓の導入を答申した後も、議論は長く停滞している。 特に自民党内で「家族の一体感が失われる」「伝統的家族観を損なう」などと反対する議員が多いからだ。 このため夫婦別姓を望むカップルの中には婚姻届を出さず、あえて事実婚を選ぶことが珍しくない。パートナーの姓への変更を「自己の喪失」と捉える人もいる。 同姓を義務付けられ、不利益や苦痛を受ける人がいる現状は放置できない。 政府は結婚しても旧姓で仕事を続ける人が増えたこともあり、旧姓が使える機会を増やしてきた。銀行口座の多くは旧姓で開設でき、運転免許証には旧姓が併記できる。 とはいえパスポートのICチップには国際規格で併記できないなど、旧姓使用の拡大には限界がある。そもそも夫婦別姓を望む人たちには何の解決にもならない。 最高裁は2021年、夫婦同姓とする民法の規定は合憲と判断する一方、夫婦の姓に関する制度の在り方は「国会で議論し判断されるべきだ」と対応を促した。 衆院選中に共同通信社が実施した世論調査によると、選択的夫婦別姓の導入に67・0%が賛成し、反対の21・7%を大きく上回った。 6月には、経団連が早期実現を求める提言を発表した。社会的にも導入機運は高まっている。 国際社会も厳しい目を向ける。国連の女性差別撤廃委員会は10月、日本政府に民法の改正を勧告し、選択的夫婦別姓の導入を要求した。 同趣旨の勧告は03年以降で4回目だ。法的拘束力はないが、尊重が求められる。 法務省の調査では、夫婦同姓を義務化している国は日本しかない。 委員会は、結婚後に改姓するのはほとんどが女性であることから、民法の規定を「差別的」とする見解を示してきた。今回は日本政府が過去の勧告に対処していないことを批判している。 選択的夫婦別姓が導入されても、同姓か別姓かを選ぶのは個人の自由だ。家族は同姓であるべきだという考えも尊重される。 衆院選で与党の議席が過半数に満たず、国会はこれまでよりも与野党による政策協議の機会が増える。選択的夫婦別姓は与野党で熟議するテーマにふさわしい。 党内で意見が分かれる自民党はこれ以上、議論を先送りすべきではない。
西日本新聞