『さよならマエストロ』リンゴが鍵に? 新木優子、當真あみ、佐藤緋美がもたらしたもの
俊平(西島秀俊)は響(芦田愛菜)の心を射抜けるか
閉ざしていた心を開いたのは音楽への情熱だ。蓮は演奏をやめておらず、工場を訪れた俊平と即席でアンサンブルを奏でる。音楽の喜びを思い出した蓮は、父親に「誰かにちゃんと自分の音を聞いてほしかった」と告げてオケの練習へ出かけていく。瑠李も、嵐を呼ぶフルートが必要だと俊平に肯定されたことで晴見フィルに参加することになった。 俊平を見ていると、相手の欠点すら生かしてしまう懐の深さだったり、柔軟さやポジティブさを感じる。とびきりの情熱で相手との垣根を飛び超えてしまうのだが、響にだけは通じない。自由闊達に音楽の一部になる俊平を響は冷めた目で見ていて「変わっていない」と突き放す。 ウィリアム・テルのリンゴのように、俊平は娘である響の心を射抜けるのか。父の「指揮者は演奏者の痛みや苦しさをわかる人でないといけない」という言葉を耳にした響は複雑な表情だった。それでも俊平と交わす何気ない会話だったり、思い出の味であるアプフェルシュトゥルーデルを口にする姿から、わずかであるが俊平を受け入れていることも伝わってきた。 小道具で歌劇のモチーフであるリンゴを転がしながら、第2楽章は第1楽章で示したテーマを無理なく自然に広げることに成功した。オケの主要メンバーと新顔の丁寧な芝居が個々のパートを魅力的にし、ドラマの完成度を高めていた。晴見フィル解散まであと3カ月。その時、父と娘はどうなっているのか。アパッシオナートな展開を期待したい。
石河コウヘイ