<挑戦者たち・センバツ’23・山梨学院>/下 秋とは別のチームに 過酷な「丸太往復走」結実 /山梨
「神宮の頃とは違うチームになった」――。山梨学院ナインは口をそろえる。昨秋の関東大会を制して乗り込んだ明治神宮大会は、1回戦で英明(香川)に7―10で敗れた。主将の進藤天(2年)は「神宮では考え方に甘いところがあった」と悔しさを隠さない。 試合は二回、徳弘太陽(2年)の適時打で先制すると、四回にも星野泰輝(2年)の2点適時打などで3点を加えた。ところが六回に6点を奪われて逆転され、そのまま敗れた。星野は「序盤を優勢に進めて、このまま勝てると気を抜いてしまった」と振り返る。 進藤は「冬のトレーニングでは、体力面はもちろん、精神面も鍛えることができた。秋とは別のチームになった」と胸を張る。その言葉の根拠となるのが、「前代未聞の本数をこなした」という伝統のトレーニングだ。 昨年の最後の練習となった12月28日の午前。甲府市内の練習グラウンドに、大きな丸太を抱えて何回も往復する2年生21人の姿があった。吉田洸二監督(53)が、2009年センバツを制した清峰(長崎)監督時代から行っている「丸太往復走」だ。 重さ約7キロの丸太を抱えた選手たちは、まず50メートルをダッシュで往復。次に40メートル、30メートル、20メートルと、計280メートルを走る。これで「1本」だ。普段は何本走るかは選手たちには伝えていないが、この日はスタート前に吉田健人部長(26)が「今日は65本!」と宣言した。 実に3時間以上。65本を走り切れば走行距離は18・2キロになる。「最後の方はヘロヘロになった」と明かす中堅手兼投手の星野だが、「終わってみれば65本でも走れるんだと思った」と笑う。星野同様、2年生は誰一人欠けることなく走り切った。エースの林謙吾(2年)も「きつかったが、乗り越えて自信になったし、同期の絆も強くなったと思う」と話す。 また、山梨学院の練習は緻密だ。指揮官は「多くの決まり事があって選手は大変だろうが、緻密な野球がうちの持ち味。大学野球の名門に入ったOBも『高校の練習の方が頭を使ってしんどかった』と言います」と笑う。 外野からの返球の中継プレーでは、球を受ける内野手の位置取りは50センチ単位で指示が飛ぶ。挟殺の際にも野手のボールの投げ方、受け方などにさまざまな決まり事がある。走者のリードにも、打者が球を打つ瞬間だけは左足に重心を置くことが求められる。こうしておけば、打球が内野ライナーになっても速やかに帰塁できる。 練習中、吉田部長は選手たちの動きをよく見ており、決まり事を破れば即座に注意を受ける。二塁手の大森燦(2年)は「覚えることがたくさんあって大変。1年のころはさっぱり理解できず、先輩たちのプレーをよく見て考えた」と振り返るが、今ではチームメートに「今のは違うだろ」と指摘している。 進藤は「ここまで緻密な練習をやっているチームは他にないはず。積み上げてきたものを発揮して、甲子園ではまず1勝を挙げる」と意気込んでいる。【竹田直人】