【ネタバレあり】あなたはいくつ気づいた?『エイリアン:ロムルス』にちりばめられたイースターエッグの数々
「エイリアン」シリーズの生みの親、リドリー・スコットに「Fuckin’ Great!(クソすばらしい!)」という評価をもらったフェデ・アルバレス監督の『エイリアン:ロムルス』(公開中)。その言葉には、スコットによるすべての始まりの1作目と同じSFホラー・ジャンルに挑戦した心意気を称える意味はもちろん、シリーズへの愛、とりわけスコット版の1作目やジェームズ・キャメロンによる『エイリアン2』(86)へのオマージュやリンク、さらには『ブレードランナー』(82)への敬意もあり、巨匠もついついニヤリとしてしまったのではないか?などと思ってしまうのだ。 【写真を見る】最大のサプライズ!亡き名優が演じたアンドロイドが再登場(『エイリアン』) そこで今回は『エイリアン:ロムルス』に隠された数々のイースターエッグやオタクなツボを(筆者がわかる範囲で)ご紹介。気になる人はもう一度、劇場に足を運び、答え合わせをしてみてください! ※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■冒頭からオマージュ満載!そしてファン垂涎のサプライズも まずは、『エイリアン:ロムルス』のあらすじをおさらい。人生の行き場を失った6人の若者たちが、現状を脱するため希望を求めて宇宙ステーション“ロムルス”に足を踏み入れる。しかし彼らを待ち受けていたのは、人間に寄生し、異常な速さで進化する“エイリアン”。宇宙という究極の密室で、果たして彼らは逃げ切ることができるのか。 これまでと同じように20世紀FOXのファンファーレから始まるのだが、本作ではそのファンファーレとロゴが途中でフリーズする。これは『エイリアン3』(92)のOPと同じ。それから続くファーストショットが無音から始まるのがすばらしい。1作目のキャッチだった「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。」を意識しているのだろう。 本作の舞台は『エイリアン』(79)と『エイリアン2』の間。だから、コンピュータやキーボードのデザイン、モニターやそれに映る文字等はその2本を踏襲したもの。映像も20世紀風で、2024年の感覚からすると古めかしいのだが、この世界観のなかでは大正解。監督のこだわりを感じることができる。 ここで一応、シリーズ作品を時系列順に並べると『プロメテウス』(12)が2093年、『エイリアン:コヴェナント』(17)が2104年、『エイリアン』が2122年、今回の『エイリアン:ロムルス』が2142年頃、『エイリアン2』が2179年、『エイリアン3』(92)が同じく2179年、『エイリアン4』(97)が2381年となっている(※『エイリアン:ロムルス』劇場パンフレットより。年代については諸説あり)。本作は1作目から20年後、2作目から37年前という設定であり、25年に配信予定のシリーズ初のドラマ版「エイリアン:アース」はいまから70年後、2094年の地球が舞台になっているという。 今回の主人公はレイン(ケイリー・スピーニー)と、彼女の弟的存在のアンドロイド、アンディ(デヴィッド・ジョンソン)。冒頭近く、2人が食事をしているテーブルでチェックしたいのは2体の水飲み鳥。これは『エイリアン』で眠りから醒めたクルーたちが食事をするテーブルに置かれていた人形と同じだ。『エイリアン3』では動いてない鳥が1体だけ登場する。 もちろん「エイリアン」シリーズなのでアンドロイドはマストアイテム。今回は「ゴミ捨て場に捨てられていた」という設定の、シリーズでは初の黒人アンドロイドのアンディが登場する。その描写でひとつ驚いたのは、彼が痙攣を起こしリセットするために首から抜き出した小さなモジュールにしっかり“ウェイランド・ユタニ”のロゴが刻印されているところ。スコットも『ブレードランナー』では、人造ヘビの小さなウロコの1枚1枚にシリアルナンバーを入れてみんなを驚かせたくらいなので、このディテールへのこだわりは大正解。そういうところがスコットの心を掴んだのではないかと推測できる。 そして本作最大のサプライズは、やはり『エイリアン』のアッシュと同じタイプで同じルックのアンドロイド、ルークが登場するところだろう。『エイリアン』では英国の名優イアン・ホルムが演じていたものの、2020年に死去。今回は遺族に許可を取って彼のアニマトロニクスを制作し、表情や口の動きは1作目のものをスキャンしたCGIだという。彼の姿は上半身だけだが、これはおそらく『エイリアン2』のアンドロイド、ランス・ヘンリクセンが演じたビショップが最後、上半身だけになるシーンへのオマージュ。 ちなみにシリーズのアンドロイドの名前はABC順になっているというのがファンの間の定説で、1作目のアッシュ(Ash)、『エイリアン2』のビショップ(Bishop)、『エイリアン4』のコール(Call)、そして『プロメテウス』のデヴィッド(David)と続いたのだが『エイリアン:コヴェナント』ではウォルター(Walter)になっていたので、製作サイドにそのつもりはなかったということ?あるいはビショップをチェスの駒の僧正と考えるなら、今回のルークは同じくチェスの駒の城と取ることもできそうだ。エンドクレジットにはちゃんとSpecialThanksがイアン・ホルムに贈られている。 ■劇伴にも耳を傾けてみよう なんにせよアンドロイドがアッシュと同型なのでユタニ社の回し者であることは言うまでもない。本作ではリプリーが、脱出艇のナルキッソス号から宇宙空間へ放出したゼノモーフことビッグチャップが繭状になって宇宙を漂っているのをユタニ社が回収。それをもとにマザーエイリアン&エッグナシでフェイスハガーを量産できる研究をしていたのが今回の宇宙ステーションという設定になっていて、その研究のチーフ的な存在がルークだったようだ。本作でもルークは皮肉っぽさを発揮して『エイリアン』と同じ言葉「君たちは生き残れない。同情するよ」を若者たちにかけて失望させるし、『エイリアン2』のビショップと同じように「合成人間と呼ばれるほうがいい」とも言う。このシーンのバックに流れるのはジェリー・ゴールドスミスによる1作目『エイリアン』のテーマ曲だ。 音楽でもうひとつチェックしたいのは、再稼働を始めたルネッサンス・ステーションを若者たちが見回るシーンのバックに流れているワーグナーのオペラ「ラインの黄金」の終曲「ヴァルハラ城への神々の入城」。これは『エイリアン:コヴェナント』の冒頭近く、アンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)を初起動させたピーター・ウェイランド(ガイ・ピアース)が彼にピアノ演奏を頼んだ曲と同じ。神々の没落を予言した内容なので、これからの出来事を暗示した上手なチョイスだ。スコットはワーグナーが大好きなことでも知られている。 ■“悪名高き”ウェイランド・ユタニ社の変遷 もう一度、アンドロイドに話を戻すと、みんなにポンコツ扱いされるアンディがルークのモジュールを入れることで知能も体力も俄然アップ。みんなの指揮を執るようになる。大変身したアンディとルークが、感情に任せて右往左往する若者たちを醒めた目で見つめるのは『プロメテウス』からの流れ。なにせスコット、『エイリアン:コヴェナント』ではアンドロイドのデヴィッドに「価値のない種(人類)に再生はさせない」などと言わせているくらいなので、このアンドロイドの描写はツボだったはずだ。 そして、シリーズファンならやっぱりチェックしないといけないのはウェイランド・ユタニ社。主人公たちはみんな同社の植民地惑星で酷使されて未来に希望を見いだせないという設定だ。このシリーズのエイリアンに並ぶもうひとつの敵と言ってもいい。この巨大コングロマリット、1作目ではリプリーたちには「会社」と言われているだけで、名前は出ていなかったという説もあるが、クルーが飲んでいるアスペンビールのラベルをよーく見ると“Weyland Yutani”の文字と、以降のシリーズとは違うロゴが印刷されている。さらにはコンピュータのモニターにも名前が!お馴染みの“W”を模したロゴと、社名が“WEYLAND YUTANI”と大文字になるのは『エイリアン2』からだが、その中間に位置する本作ではすでに大文字になっている。 ところでこの大企業。時系列でいうところの『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』では“ウェイランド・インダストリー”という名前で『エイリアン』から“ウェイランド・ユタニ”と社名が変更されている。これについてスコットは『プロメテウス』のインタビューでこう答えていた。「ピーター(・ウェイランド)が亡くなって役員たちが企業の実権を握り、日本の湯谷社と合併したということなんだ。世界を動かすのは日本だから(笑)。でも、いまはインドにも注目しなくてはいけないだろうな」。これは12年の公開時の言葉なので、いまだともう日本ではないかもしれないが、時代の流れを考慮してそういう裏設定も考えられていたということなのだろう。『ブレードランナー』で近未来=日本的という図式を作った監督らしいアイデアだ。 ■果敢に戦うレインの姿がリプリーに重なっていく… もうひとつの大きな注目ポイントは、シリーズに頻繁に登場する妊娠の描写。今回はすでに妊娠していたケイ(イザベラ・メルセード)が、お腹の子を助けようとして、ルークがブラックグー(『プロメテウス』に登場するエイリアンから抽出した黒い液体)から作った薬、Z-01ことルークが呼ぶところの“プロメテウスの火”を注射したためハイブリットの子ども、大きなオフスプリング(子孫という意味)が誕生する。そのルックは『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』に登場した人類の創造主、エンジニア風になっているのがポイントでかなりグロテスク。エイリアン、エンジニア、そして人間のDNAが合わさって生まれた新種といえる。本作では最後、放出されて終わっているが、果たして実際に死んだかはわからない。続編が作られるなら、また登場する可能性もありそうだ。 このオフスプリングがレインの最後の脅威になるのだが、シリーズではお馴染みの最後のサスペンス、爆破のカウントダウン(今回は小惑星に衝突するまでのカウントダウン)が続くなか、下着姿のレインが宇宙服を着てオフスプリングを宇宙空間に放り出すのは『エイリアン』のリプリーと同じだ。さらに、その唯一の生き残りがモノローグで日誌風に記録を残すのも『エイリアン』と同じだった。 そのほかにも、エレベーターでゼノモーフがレインの顔に近づけて口を開けるのは『エイリアン3』のリプリーと同じ。若者たちがステーションの廊下を疾走するシーンも『エイリアン3』とよく似ている。また、レインの靴は『エイリアン』でリプリーが履き、のちに市販されたリーボックのエイリアンスタンパーだという。これらはまだ氷山の一角。挙げだしたらきりがないほど過去作とのリンクが多く、そういう意味ではこれまでのシリーズの集大成的な立ち位置になった作品といえるかもしれない。 ところで、フェデ・アルバレス監督のインタビューでは、『ブレードランナー』にちなんだオリガミが登場しているという小ネタをイースターエッグとして教えてくれていた。言われて再度チェックしたものの見つけられなかったので、もし見つけた人がいたらぜひとも報告してください! 文/渡辺麻紀