メタバースで子どもの居場所づくり リアルな場所へ踏み出す一歩へ
学校へ通いづらい子どもたちが増える中、インターネット上の仮想空間「メタバース」を活用した居場所づくりが始まっている。2022年度の文部科学省の調査によると、不登校の小中学生は過去最多となり30万人に迫る。外出や対面が苦手でも参加しやすく、学習や交流の機会につながるとして注目されている。 子どもの目標設定、やる気を引き出すには?【声かけのポイント】 月曜日の午後0時半すぎ。パソコン画面上の「噴水広場」にアニメのキャラクターや動物のアバター(分身)が次々と現れた。「おはよ~」「土日は何してた?」。文字によるチャット(会話)が始まる。まるでゲームの世界に入り込んだようだ。 アバターたちは、英語の時間になると机の並ぶ「教室」へ移動。講師がイラストに合った会話を選ぶクイズを出すと、さまざまな意見がチャットで飛び交った。「部活動」は、2部屋に分かれてゲームやお絵かき。チャットから音声通話へ切り替える子もいて、会話が弾んでいた。 NPO法人「キリンこども応援団」(大阪府泉佐野市)が運営するオンライン形式のフリースクール「clulu(クルル)」。小4~中3が対象で、現在12人が利用している。在籍する小中学校には毎月学習の報告書を送り、校長が認めた場合は出席扱いにできる。 代表の水取博隆さん(41)は、実際のフリースクールを運営する中で、部屋にこもって家族以外と接触がない子や、施設の入り口まで来ても中に入れない子を何人も見てきたという。「誰かとつながることが、リアルな場所へ踏み出す一歩になる」と、22年秋にオンライン事業を始めた。 「友達から悪口を言われて悲しくて。学校が怖くなった」。大分県の小学5年、たいようさん(10)が学校へ行きづらくなったのは小2の3学期のこと。父親(41)は「通えるフリースクールも探したが、良さそうなところは車で1時間の距離だった」と話す。 クルルの存在を知り、1年前から利用している。たいようさんは「同じような経験をした子もいて、みんな優しく話を聞いてくれた。この人たちと一緒なら、と安心できた」と明るく話す。学校では飲み込んでいた気持ちをクルルの仲間には伝えることができたという。 「家の中が“盾”だったけど、人と話す勇気が出て、実際に会って話すのも楽しくなった」とたいようさん。最近は、近所の友達ともよく遊ぶ。パソコンを使った仕事をしたいという将来の夢もできた。父親は「相手の気持ちをくんだ発言が増え、成長を感じる。全国に友達がいるってすてきだと思う」と話す。 民間だけでなく、自治体での活用も進む。 東京の認定NPO法人「カタリバ」が、21年から運営するメタバースを使った不登校支援プログラム「room-K」。埼玉県戸田市や東京都文京区など6自治体と連携し、延べ約230人の子どもを受け入れてきた。広報の白井さやかさんは「画面越しの支援者には悩みや困り事を相談しやすい子もいる。自治体や学校と情報を細かく共有することで、実践的な支援につなげている」と話す。 21年から登校が難しい小中学生のオンライン学習支援に取り組む熊本市教育委員会。オンライン会議ツールを使った授業の配信に加えて、23年1月からはメタバースで子どもたち同士が交流する独自の「バーチャル教室」の運用を始めた。 同市教委の吉里麻紀・総合支援課長は「従来は大人の支援員としかやりとりする機会がなく、他の子どもたちの存在を感じにくかった」と説明する。現在は、放課後の時間に「アイドル」「アニメ」などテーマで分かれた部屋に各自アバターで入り、会話を楽しんでいるという。 市内の不登校の小中学生は22年度2760人で、同年度は322人が利用を申し込んだ。吉里さんは「学習の楽しさを感じたり、人との信頼感を取り戻したりして、心の栄養を蓄えるような居場所になれば」と話している。 (新西ましほ)