「映画賞総なめ」磯村勇斗にドラマ『ふてほど』で“白ブリーフ一丁”にさせた宮藤官九郎の「凄み」
今クールで最も話題をさらっているドラマといえば、宮藤官九郎が脚本を手掛ける金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)だろう。 【衝撃写真あり】『不適切にもほどがある』仲里依紗が似合いすぎ「 網タイツ&ド派手レオタードのキラ このドラマは、昭和から令和の現代にタイムスリップしてきたコンプライアンス意識の低い“おじさん”(阿部サダヲ)が、「不適切な発言」で令和の停滞した空気をかき回すタイムスリップコメディ。その中で、昭和の熱血漢「ムッチ先輩」と令和の低温体質「秋津くん」の一人二役を演じる俳優・磯村勇斗の活躍ぶりに注目が集まっている。 「『アイドルになってもらいたい』という要望に応え、“マッチ”ならぬ”ムッチ”に髪型から衣装に至るまでなり切ってバイクにまたがる姿は、このドラマにおける昭和のアイコン。一方、令和の“秋津くん”は『恋愛はコスパが悪い』と冷めたことを言う今時の会社員だが、やがて極論ばかりを口にする市郎(阿部)に惹かれていくという役どころ。 さらにドラマの後半に登場するミュージカルシーンでは、宝塚歌劇団などのプロフェッショナルなキャストに負けないキレキレのパフォーマンスを披露しています」(制作会社ディレクター) まさに昭和と令和の架け橋となるキーパーソンを熱演。クドカンドラマには初登場ながら、スタッフの期待の高さには驚くばかりだ。 「磯村は’15年、若手俳優の登竜門『仮面ライターゴースト』(テレビ朝日系)に出演。’17年、朝ドラ『ひよっこ』(NHK)でヒロイン有村架純の相手役を射止めると、’18年『今日から俺は!!』(日本テレビ系)ではヤンキー役。 翌年の『きのう食べた?』(テレビ東京系)で同性愛者のジルベール役。’20年『恋する母たち』(TBS系)では吉田羊相手に全裸シーンを披露。鍛えた肉体から滲み出る色気で女性ファンの心を鷲掴みにしました」(ワイドショー関係者) キャリアを重ねるごとに、ハマり役を更新してきた磯村。しかし彼の快進撃はここからがいよいよ本番といっていい。 「’23年には、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』『最後まで行く』『波紋』『渇水』『月』『正欲』が公開され、日本アカデミー賞優秀助演男優賞をはじめ、各映画賞で助演男優賞を総ナメ。 特に相模原で起きた障害者施設大量殺戮事件をモチーフにした『月』、そして、マイノリティーの“欲”に光を当てた『正欲』といった作品での演技が高く評価されました」(ワイドショー関係者) 死者19人、重軽傷者26人にも及ぶ連続殺人犯の“さとくん”役を演じた磯村。しかしまだ被害者の家族も生きている。脚本を読んだ段階で、襲われる危険すらある役どころに 「この企画、本当に映画にしていいんですか? 本当に作って大丈夫ですか?」 と石井裕也監督に疑問を投げかけた。やがて話し合いを重ねる内に 「これは作らなければならない」 と言う気持ちが芽生え、“さとくん”役を引き受けることにしたと語っている。 「企画を立ち上げた河村光庸プロデューサーは、死刑判決が出る前の犯人と面会しています。犯人が書いた手紙、絵のコピーを見せられた磯村は『絵は綺麗ですし、書いてある言葉も丁寧で優しいんですよね。そこだけ見ると、事件を起こした犯人とはとても思えない』『(それが逆に)怖く思えた』と話しています。 そんな“普通の人”が心の奥底でふつふつと闇をまとい“さとくん”になっていく。磯村は演じる中で、“さとくん”の中に生まれる狂気を育てていきました」(制作会社プロデューサー) そうした狂気を象徴するのが、闇の中で空に輝く月。“さとくん”の狂気が満ちつつある頃、同じ施設で働く小説家の洋子(宮沢りえ)に、障害を持つ人々への排他的な感情をぶつける。台本では10ページにも及ぶ対決シーンが、今作でも大きな見所になっている。 「口では否定しながらも心が揺れる洋子。目の前の“宮沢りえの心”を揺り動かそうと迫るこの場面は、プランを練りすぎ予定調和にならないためにもぶっつけ本番で行われました。 その場面の磯村の演技について、宮沢さんは『集中力と“さとくん”としての衝動が途切れずに、監督に応えていく姿を見て、やっぱり力のある人だと思いました』とコメントしています」(前出・プロデューサー) 渾身の演技が詰まったこのシーン。俳優・磯村勇斗は、この映画で俳優としてのギアをまた一段上げたといっていい。 ’22年、映画『前科者』で磯村を起用した岸善幸監督は、去年公開された『正欲』でも同じマイノリティーの“欲”を持つ幼馴染みの桐生夏月(新垣結衣)と偽装結婚する難易度の高い、佐々木佳道役を磯村にオファーしている。 「磯村を『眼差しと佇まいだけで何かを語れる役者』と評する原監督。今作では感情のグラデーションを表現するために、セリフは語り方、抑揚は勿論ですが、表情と体全体で佳道の感情をとても繊細に演じて魅せています」(前出・ディレクター) キャリアを重ねるごとに、ハマり役を更新してきた磯村勇斗。数々の映画賞を総ナメにする磯村に、時には白いブリーフ一枚で仁王立ちになる“ムッチ先輩”を演じさせる宮藤官九郎は、やはり恐ろしい――。 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版
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