生まれる前から賭けるレース 朝日杯フューチュリティステークスはスリル満点 井崎脩五郎のおもしろ競馬学
2001年、朝日杯3歳ステークスというレース名が、「朝日杯フューチュリティステークス」に変わったときのこと。 フューチュリティ(futurity)が「将来」あるいは「未来」を意味することは知っていたが、念のためにランダムハウス英和大辞典(パーソナル版/小学館)を引いてみたら、その通りの訳語が書いてあった。 へえーっと思ったのは、フューチュリティの直後に掲載されていたこの言葉。 フューチュリティレース futurity race =通例2歳馬のレース。出走馬はレースの行われるずっと以前に、ときには子馬がまだ生まれないうちに選定されている。 初耳。そんなレースあるのかよである。世の中、広いなあ。 「生まれないうちに-」とは、想像するに、気の早い連中のこんなやりとりがあったのかも。 牧場主が、ライバルの牧場主に賭けを持ちかけるのだ。 「うちの◯◯が今年産む馬と、お前のところの□□が今年産む馬で、賭けをしないか」 「おお、やろうじゃないか」 「同じレースでデビューさせて、先にゴールインしたほうが勝ち」 「勝ったほうが賭け金総取りな」 「望むところだ」 レースは2歳6カ月の第1週目、距離が1600メートルとそのとき決めておき、そのレース当日に片方が仕上がらずに出走できなければ、出たほうが勝ち。 生まれる前から、賭け金は決めていたはず。オスかメスか分からず、体格も分からないうちに賭けるのだから、賭け好きにとってはスリル満点だったろう。 生まれてもいないのに賭ける、その賭け金(=ステークス)のことを、フューチュリティステークスと呼ぶことが、これは新英和大辞典(研究社)に書いてあった。 イギリス人の賭け好きは有名。賭けの対象も多岐にわたる。「アサド失墜の年度当て」も当然行われていたはずという。当てた人いるのかな。(競馬コラムニスト)