『ミツバチのささやき』のスペインの巨匠、31年ぶりの新作長編映画
発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選! 【画像】今月見るべき映画3選
『ミツバチのささやき』のビクトル・エリセ監督から届いた31年ぶりの長編新作!『瞳をとじて』
『ミツバチのささやき』や『エル・スール』等、詩情溢れる傑作によって愛され続けてきた映画監督ビクトル・エリセ。寡作で知られたスペインの巨匠の、なんと31年ぶりの新作長編『瞳をとじて』が届いた。 映画はパリ郊外に建つ「悲しみの王」という名の屋敷のシーンから始まるが、それは『別れのまなざし』という映画の断片であることが明かされる。陰影深いサロンでの場面で、老人から娘探しを頼まれる男を演じたのは、監督ミゲルの親友で人気俳優だったフリオ。彼は撮影中に失踪し、遺体は見つからないまま自殺と断定され、映画は未完に終わった。 それから20年以上が経ったある日、映画界を離れたミゲルのもとに、未解決事件を追うテレビ番組からフリオに関する取材協力の依頼が届く──。 大量のフィルム缶が並べられた倉庫。カタカタカタカタと鳴る映写機の音。禁煙の映写室。闇へといざなう映画館の赤いビロード張りの椅子。フィルム時代の映画の記憶に導かれ、ミゲルは記憶の封印を解いてゆき、暖炉やランプのオレンジ色の灯りの中でフリオが残した謎のピースを手繰り寄せてゆく。 「(カール・テオドア・)ドライヤー亡き後、映画に奇跡は起こらない」という台詞が飛び出すが、エリセは光と影、そして音が記憶を超えて魔法のように、感覚や想いを呼び覚ます奇跡を焼き付けようと挑む。 【写真】映画監督のミゲルを演じるのはスペイン出身の俳優、マノロ・ソロ
なお、フリオの娘アナに扮するのは、かつて『ミツバチのささやき』で「ソイ アナ(私はアナ)」と囁きかけたアナ・トレントだ。あの時の大きな褐色の瞳はそのままに、彼女が再び “アナ”を演じるというプレゼントが仕掛けられている。 今回、嬉しいことに、この新作の公開前に『ミツバチのささやき』と『エル・スール』が特別上映される。名作を連続で観てもらえたら、映像詩人エリセのまなざしをより一層味わっていただけると思う。 【写真】1985年に日本で公開され今でも多くの映画ファンをうならせる『ミツバチのささやき』で6歳の少女を演じたアナ・トレント。今作での出演が話題となっている 『瞳をとじて』 2月9日(金) TOHOシネマズ シャンテ ほか全国順次公開 BY REIKO KUBO