夏の甲子園でヒットを目指した「地方大会打率0割台」8人の物語...悔しさと苦しさと恥ずかしさと
西日本短大付(福岡)の古賀海凪(みなぎ)は、3番打者ながら福岡大会で21打数2安打の打率.095だったが、あっけらかんとしていた。 「数字は悪かったけど、バッティング的には悪い感じはなかったっす。当たりがいいのが何個かあったんで。運が悪かったっす」 西日本短大付のチーム打率は.381。スタメンには打率4割以上の打者が6人並ぶ。周りは打つのに、自分が打てないことを気にしなかったのだろうか。 「しゃあないっす。みんな打ってくれてるのでラッキーでした。打てないこともあるっすよ」 金足農(秋田)との初戦は中飛、犠打、四球、二塁ゴロと第4打席まで安打は出なかったが、一死三塁で回ってきた第5打席。右中間に打ち上げた打球が強い浜風に戻されてライトの前にポトリ。甲子園初安打はタイムリーヒットになった。 「運がよかった。運をよくするためにっすか? ゴミ拾います。打てない時は、考えすぎず、『次は打てる』とポジティブにいくことっすかね」 数字よりも、内容を見る。話し方でもわかるように、深刻にならず、軽い気持ちでいるほうが意外とドツボにはハマらないのかもしれない。 関東一のショート・市川歩は自他ともに認める「守備の人」。東東京大会では15打数1安打の打率.067だったが、気にはしていなかったという。 「もとから打てないので、打てない原因なんてないですよ。ヒットは出なくても、チームの勝ちに貢献できるバッティングを意識しています。進塁打とか、そういうのも含めての0割だと思っています」 それでも、周りはいじってくる。 「『0割』って言われましたね。そう言われたら、『甲子園で打つから』と返してました」 その言葉は甲子園の1打席目で現実になる。北陸(石川)との初戦、0対1で迎えた3回裏。先頭打者として打席に立つと、ファーストストライクから果敢に打って出る。ストレートをライナーでセンター前に弾き返した。市川の安打から好機が生まれ、この回、逆転に成功した。 「たまたまストレートに反応できました。打った瞬間、みんなから『やっと打ったな。10割じゃん』と言われました。1打数1安打で10割だったので」