大企業の資本金減資による税金逃れに国が「待った」。なにが問題なのか?税理士が解説
「2024年与党税制改正大綱」に、外形標準課税の適用法人を拡大する改正が盛り込まれた。 「外形標準課税」とは、資本金1億円超の法人を対象とした課税制度で、資本金と付加価値を基準に課税されるというもの。外形標準課税の対象法人の割合は、2004年の制度導入時と比べて約3分の2に減少しているという。 つまり、いわゆる「大企業」にも関わらず、資本金を1億円以下に減らすことで外形標準課税の対象から逃れ、税法上“中小企業化”し節税している企業が相次いでいる。 そこで、今回の税制改正大綱で、節税封じが行われることとなった。 具体的には、「資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えた場合には外形標準課税の対象とする」追加基準が設けられた。なおこの改正は令和7年4月1日に施行されるが、この税制改正大綱の公布日以後に減資をする場合も、同様の措置が講じられる。 そもそも、減資による節税とはどういうことなのか、今回の改正により今後どのようになるのか、岩永悠税理士に聞いた。 ●「資本金1億円以下の中小企業」が受けられる8つのメリット ーーそもそも資本金1億円以下の中小企業になると、税制上どのような節税メリットがあるのでしょうか? 「資本金1億円以下の企業は法人税法上、『中小企業』とされ、税制上以下の8つのメリットがあります。 1)軽減税率の適用 法人税の適用税率において、800万円以下の所得に15%の軽減税率が適用される(本則23.2%の税率適用は800万円超の所得にのみ)※ 2)交際費の特例適用 交際費の定額控除(限度額800万円)と接待飲食費特例措置(50%損金算入措置)との選択適用ができる 3)繰越欠損金の全額活用 過去10年以内に発生した繰越欠損金のうち、その事業年度の所得金額まで控除できる(資本金1億円超の法人は所得金額の100分の50まで控除) 4)繰越欠損金の繰戻還付の活用 欠損金額が生じた場合、その欠損金額を前事業年度に繰り戻して、法人税額の還付を請求できる 5)少額減価償却資産の損金算入の特例 30万円未満の固定資産を取得した場合、年間計300万円までその全額を損金に算入することができる※ 6)中小企業特有の特別控除や特別償却の活用 中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制など 7)同族会社の留保金課税の不適用 特定の同族会社が利益を配当せず内部留保した場合、課税留保金額に10~20%を乗じた金額が課税される「留保金課税」制度が不適用になる 8)外形標準課税の不適用 地方税を計算する時に赤字でも課税できるようにするため、報酬給与や資本金、賃借料などに対しても税金を課す「外形標準課税」が不適用になる 今回の改正は、この8つ目の「外形標準課税」逃れを封じることを目的としたものです。 外形標準課税は資本金1億円を超える企業が対象のため、今回の改正で影響を受ける可能性があるのは、基本的には上場企業および上場準備会社、地場大手企業などになります」 ※軽減税率の適用と少額減価償却資産の損金算入の特例は、適用期限が切れる前に2年ごと延長されている ●税が画一的な側面を持つ以上、仕方がないという見方も ーー今回の外形標準課税の課税対象法人の拡大について、岩永先生はどうお考えになりますか? 「各種記事にもあるように、現状の外形標準課税は形式基準であるため、黒字企業でも資本金を減資さえすれば、外形標準課税逃れが可能です。 コロナ禍で大幅な業績悪化となったJTBやHIS、回転寿司チェーンのカッパ・クリエイトなどの企業は仕方ないと思いますが、黒字を維持したままでも、中小企業の特例を活用できるため、制度の抜け穴的な使い方として、資本金を1億円まで減資する企業が後を経たない現状です。 そもそも、外形標準課税の導入の目的は、一般的に下記の4つと言われます。 ・税負担の公平性の確保 ・応益課税としての税の性格の明確化 ・地方分権を支える基幹税の安定化 ・経済の活性化、経済構造改革の促進 外形標準課税の導入目的を考えると、形式のみを満たすことで課税逃れとなるようなことは是ではありませんが、税が画一的な側面を持っている以上、ある程度は仕方ないことだと考えます。 外形標準課税は法人事業税であることから、地方の公共サービスの維持という側面もあり、多くの地場大手企業などが対象となっているものの、大企業のみが負担する制度は如何なものかとも考えます。 ●「企業版ふるさと納税」の活用も視野に入れるべき とはいえ、全企業の99.7%を中小企業が占める日本において、中小企業の担税力は乏しく、追加の徴税がある場合でも金額は限られるため、大企業向けの資本金基準というものは致し方ないといえるでしょう。 今回の税制改正大綱により、形式を満たすことでの課税逃れはある程度防ぐことができると思いますが、時間軸的にはもう少し余裕があるため、上場企業以外は減資の検討に入ることでしょう。外形標準課税から逃れ、「企業版ふるさと納税」を選択した方が地元への貢献やPRが高いと考える企業も出てくるのではないでしょうか。 地方税確保という観点で考えると、個人版ふるさと納税が成功していることを鑑みると、企業版ふるさと納税をもっとPRすべきだと考えます。しかし、ふるさと納税のサイトが乱立し、ポータルサイト業者が儲かっている実情は本末転倒です。国主導でポータルサイトを一括管理し、手数料は原価のみとして運営を行うべきではないでしょうか。 話は逸れましたが、これを機に地方税確保という観点から制度そのものを見直すべき必要があると考えます」 【取材協力税理士】 岩永 悠(いわながゆう) アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員。 西南学院大学卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。2007年中堅の税理士法人に入所。26歳で税理士登録後、国内大手税理士法人の福岡事務所設立に参画。13年独立開業、15年法人化。「日本のミライに豊かさを」をビジョンに掲げ、全国10拠点体制でグループを運営している。 ・事務所名 : アイユーコンサルティンググループ 税理士法人アイユーコンサルティング ・URL:https://bs.taxlawyer328.jp/
弁護士ドットコムニュース編集部