年金月15万円、83歳母の「大丈夫」を信じていた50歳息子…“3年ぶりの実家”で目の当たりにした「まさかの光景」【司法書士が解説】
柔軟剤の香り→腐敗臭に…息子が目にした実家の「異様な光景」
新幹線からローカル線に乗り継いで4時間。ようやく着いた実家の玄関を開けると、異様な臭いがします。いつもなら、母親お気に入りの柔軟剤の香りに包まれ「実家に帰ってきた~」とほっとするのですが、裕介さんは「まさか亡くなっているんじゃ……」と胸騒ぎが止まりません。 「ただいま!」 玄関先で呼びかけても反応はありません。なかへ入ると、まるでそこはゴミ屋敷のようでした。 テーブルの上はいつのものかわからない腐った食べ物が並び、床はゴミに溢れ足の踏み場もありません。綺麗好きの信子さんは、いつもきちっと部屋を整理整頓していたので、空き巣でも入ったのかと思うほどの異様な光景です。 そんななか、裕介さんは、居間のテレビがついているのに気がつきました。 「母さん!」 信子さんは、ソファーに座ってテレビをぼーっと見ています。裕介さんの呼びかけに、ようやく信子さんは反応を見せました。 「あら、忠志さん。……おかえりなさい」 信子さんは、久しぶりに帰ってきた裕介さんの姿を見ても、父親の忠志さんだと思い込んでいるようです。 「母さん! なに言ってんだよ俺だよ。裕介だよ」 裕介さんが必死に自分の名前を伝えても、「ああ……そう」と鈍い反応をみせたあと、再びぼーっとテレビを見始めてしまいました。明らかに意思の疎通ができていません。 「母さん、しっかりしてよ!」…お金を引き出そうにも、“暗証番号がわからない” 裕介さんは、この母親の変化に確信を持ち、すぐに信子さんを近所の総合病院へ連れて行きました。案の定、検査の結果「認知症」であると判明しました。 いつかこんな日が来ることは、頭の片隅に置いていたつもりです。しかし、実際に認知症であるとはっきり診断されてしまうと、「いよいよその日が来てしまったのか」と、裕介さんは深くため息をつき、肩を落としました。 実家に戻り、この先どうすべきかを考え込む裕介さん。すぐに東京へ連れて行って一緒に暮らすのは難しく、また親戚はほとんど亡くなってしまっていることから、実家の近くに頼れる人は誰もいません。そこで、ネットで介護サービスについて検索すると、さまざまな介護サービスがヒットしました。 「当面のあいだだけでも、介護サービスを利用するしかないな。しかし、金が……」 気持ちを切り替えて、ひとまず散らかり放題の家を片づけることにしました。すると、ゴミの山のなかから信子さんがいつも使っているカバンが出てきました。なかに入っていたお財布を確認すると、キャッシュカードと小銭が入っています。 「そうか。貯金と年金から出せる分は母さんに出してもらえれば、介護費用はなんとかなりそうだ」 そう思って、裕介さんは、信子さんに銀行口座の暗証番号を聞きました。 「母さん。銀行口座の暗証番号ってわかる?」 「えーとね。さわやか銀行やったけ? 12……12……えー……」 「母さん! しっかりしてよ。暗証番号がわからなかったらお金は引き出せないじゃないか!」 裕介さんは、焦ります。どこかに暗証番号が書いている紙がないか必死で探しましたが、それらしき紙は見つかりません。 キャッシュカードの暗証番号は、3回間違えるとロックがかかる金融機関がほとんどです。また、ロックがかかる前に金融機関に問い合わせたとしても、本人が認知症であるとわかれば銀行によって口座が凍結されてしまう可能性があります。 信子さんの口座からお金がおろせなくなれば、裕介さんが介護にかかる費用をすべて負担しなければなりません。 「くそっ……こうなる前にいろいろ準備をしておくべきだった!」 裕介さんは、つい大きな独り言をこぼしましたが、もうどうすることもできません。
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