環境団体&自動車団体の間で板挟み! 次期排ガス規制案「ユーロ7」の行方が全然見通せないワケ
ユーロ7実施に向けて残された課題
3月に採決されたのはあくまでも制限値を定めた一次立法にすぎず、詳細はこれから決めるという。自動車工業団体によると、適用開始までのリードタイムが確保できたものの、依然として技術面、資金面での課題が残るという。 ブレーキ粉じんの粒子状物質(PM)排出試験は、国連による国際試験方法GTR No.24に基づくとされているが、詳細は未定だ。またPM10制限値は、ユーロ7ではパワートレイン別に制限値を設定しているものの、2035年からは一律3mg/kmとなる予定。さらに2030年から追加の粒子数制限値が設定される計画もあるが、詳細は決まっていない。 このほか、ユーロ7では、走行距離計、噴射システム、排ガスシステムの制御ユニットを外部から操作できなくする仕組みが必要であるが、もちろん実施規則は決まっていない。排出超過を検出するオンボード監視システムの搭載も規定されているものの、もちろんその要件は未定だ。 一部の自動車メーカーやサプライヤーは間に合うとしているが、本当に実装に間に合うのかという懸念が残るのが現状だろう。
板挟みのユーロ7
当初案より緩くなったユーロ7に環境保護団体は不満であるが、2035年にゼロエミッションの乗用車しか新車販売できなくなるにも関わらず、今更ながらガソリン車・ディーゼル車へのさらなる技術開発や投資が迫られる矛盾に対し、自動車メーカーやサプライヤーが弱腰になるのはわからないでもない。 また、車両1台あたりの追加費用も議論の的となっていた。欧州委員会は、ユーロ7(当初案)の実装には、1台あたり平均して80~180ユーロ(約1万3000~3万円)の追加費用を試算していたが、自動車工業団体の試算では4倍から10倍になり、世界的にみてヨーロッパ自動車産業の競争力が低下する懸念があると主張。当初案の緩和で追加費用の議論はひとまず下火となったが、細部まで決められていない規則が数多くあり、額の大小はあるものの追加費用は避けられないかもしれない。 そもそも環境保護に向けて基準は厳しくなる反面、高価格となる自動車をいったい誰が喜ぶのだろうか。 環境委員会のメンバーであるチェコの副議長は、ヨーロッパの産業と市民の両方に害を及ぼす環境政策を追求することは逆効果であるとし、 「環境目標と製造業者の重要な利益のバランスを取ることに成功した」 と、欧州会議の採決後に述べている。環境保護団体は不満だろうが、現実的というか、至極まっとうな感想と思えなくもない。
小田坂真理雄(国際トラフィックライター)