『宇宙人ジョーンズ』や『こども店長』を生み出した“時間の使い方” CMプランナー・福里真一×FIREBUG・佐藤詳悟対談
100社以上のタレント事務所やインフルエンサー企業とのパートナーシップを基に、データ・ドリブンでキャスティングやコンテンツ企画、メディアプランを通じたソリューションを提供しているFIREBUG代表取締役・佐藤詳悟による連載『エンタメトップランナーの楽屋』。 【写真】佐藤詳悟、福里真一の撮り下ろしカット 第13回は、クリエイティブディレクター・CMプランナー・コピーライターの福里真一をゲストに迎える。1992年に電通に入社、2001年からワンスカイに所属。日本コカ・コーラ「ジョージア」の『明日があるさ』シリーズや、富士フイルムの『フジカラーのお店』シリーズ、サントリー「ボス」の『宇宙人ジョーンズ』シリーズ、トヨタ自動車『こども店長』、ENEOS『エネゴリくん』、マクドナルド『夜マック®店長』、ユニクロ『LifeとWear』といった数々のヒットCMを手がけてきた。最近ではYouTubeチャンネル「広告ウヒョー!」にも出演している。 2021年にはインターネットの広告費がマスコミ4媒体合計を上回り、広告のあり方は大きく変化してきた。「テレビ離れ」が叫ばれる現在でもCM制作の第一線で活躍する福里は、この時代の広告についてどう考えるのだろうか。 ・企画「だけ」を考える時間の重要性 佐藤:福里さんは、ENBUゼミナール(映画監督や俳優の養成専門学校)の講師をされていたんですよね。僕はそこに生徒として通っていました。吉本興業に内定をもらった頃で、入社前にクリエイティブのことを勉強しておきたかったので。 福里:そうでした。もうなくなってしまったけど、ミュージックビデオ・CMコースというのがあって。いま思うと、学ぶべきことがまったく違う二つがまとめられた奇妙なコースでした(笑)。 佐藤:たしかに。とはいえ、僕としてはいろいろと学ぶことができました。そんな出会いからいままで、お仕事でご一緒したりお食事に行ったりはしていますけども、今日は福里さんのお仕事の取り組み方やCMのことなどを伺いたいと思い、お時間をいただきました。 福里:なるほど。よろしくお願いします。 佐藤:よろしくお願いします! 早速ですが、福里さんは自身が考える企画を良くしていくために日々やっていることはありますか? 福里:企画のために、というと特にはありません。でも睡眠時間をキープすること、企画だけをする時間を確保することは大切にしています。睡眠時間は人によるとしても、企画だけをする時間の確保は大事なことだと思います。 佐藤:なぜそれが大事なのでしょうか。 福里:考えるというのは意外と面倒なことだし、何日か考えないでいると考えたくなくなってしまいますから。毎日2時間なら2時間、企画を考えると決めて時間を確保する。そしてそれをキープすることが大切だと思っています。 忙しくて、いろんなことをする時間と企画を考える時間が混ざり合っている人はすごく多いと思います。すると、考えているような気分にだけなって、きちんと考えている時間は結果的にすごく短いようなことがある。それは一番良くありません。 ただ、みんなで企画会議をしたほうがアイデアが出る人もいて、いまの若い人はそのタイプが多いようです。でも私は若いときからそれは苦手で、2時間なら2時間、ひとりでじっと考えたいタイプだから、そうしているというのはあります。 佐藤:企画を2時間考えたら、それ以外の時間はまったく考えないんですか? 福里:まったく考えません。その時間以外は企画のことを完全に忘れます。いろんなクリエイターがよく、「散歩してたらアイデアが急に降りてきた」とか言いますけど、私の場合は全然降りてきません。考えないと降りてこないタイプです。 ・福里真一にとっての“企画の100点”とは 佐藤:福里さんが作ってきたCMは、シリーズになっているものが多いと思います。企画提案をするときに、シリーズ化されることを意識しているからなのでしょうか? 福里:意識してそうなっているわけではありませんが、自然と考えてはいるかもしれません。キャラクターや目印になる存在がいたほうが、広告が効果を発揮しやすいと思っているのはそう。それが結果的にシリーズ化されやすいということです。 象徴的なキャラクターがいて、それを好きになればなるほど、商品や企業のことも好きになったり、広告を覚えていたりしやすい。たとえば、「ボス」では宇宙人ジョーンズというキャラクターが毎回地球を調査している、とかね。 佐藤:そのキャラクターや目印を置くときに、意識していることはありますか? 福里:商品なり企業なりを人格化したほうが、好きになってもらいやすいと思っています。「商品や企業がもしも人だったらこんな感じだろう」といったものを生み出すということです。企業そのものだと難しいところもありますけど、「ジョージア」と「ボス」それぞれのイメージの違いのようなものがあれば、はっきりしやすいと思います。 佐藤:福里さんにとって企画の100点というのは、結果が出て、長く続くことなんですか? 福里:私が目指していた広告のあり方は、たしかにそういうところがあります。CMが長く続いて、観た人の記憶として蓄積していったほうが、じわじわとイメージが形成されていって、なにかを買おうというときにそれを選びやすくなると思うので。 一度だけ強力なCMを流したとしても、商品を選ぶタイミングが一年後にあったとして、購入の動機にはつながりにくいとは思います。ただ、あまりにも時代がいろいろと変わってきましたし、テレビを観ない人が多くなってきた状況ですから、今後どうなっていくかは難しいところです。 ・ジョージアにボス…人気CMの“誕生の裏側” 佐藤:CMの企画を考える前に、クライアントに必ず聞いておきたいことはなんですか? 福里:二つあります。まずは、その商品や企業はなんのために生まれたのか。もう一つは、最終的にどんなCMにしたいのかということです。 佐藤:もう少し具体的に伺ってもいいですか? 福里:理由もなく生まれた商品や企業なんてなくて、誰かの思いがなにかしらあって生まれているわけです。さらに言えば、誰かの人生となんらか関わり合うために生まれてきているはず。 だから生み出した本人である広告主に、その商品や企業が「なんのために生まれたのか」を聞いておきたいと思っています。そうして聞き出したことを基に描くものこそが、広告ですから。 佐藤:「最終的にどんなCMにしたいのか」を聞くのは、なぜでしょう。 福里:「面白い」「目立つ」「話題になる」といったことだけでなく、きちんとブランドイメージに合う広告を考えるためです。たとえば世の中的に「カッコいい」イメージがない企業に対して「カッコいい」CMを作ったら、広告主を含めみんな「なんだか違うな」と思うはずです。だから、そのイメージのすり合わせをしておくということです。 佐藤:たしかに、広告単体のクオリティが高くても、それが広告として機能しない形になっては意味がありませんもんね。 福里:たとえば、日本コカ・コーラの「ジョージア」は、カラッと明るい感じや、元気な感じ、そういったイメージが合うブランドです。対して「ボス」は、もう少しやんちゃというか、ひねくれた感じ。 私が「ジョージア」の『明日があるさ』を担当したのは、ちょうど21世紀に変わるときです。「世紀の変わり目に前向きになりたい日本人の背中を押せるようなCMにしてください」と相談され、先方は特に「前向き」をポイントとしていました。たしかに「ジョージア」は、そういったイメージが合っていると思います。 「ボス」は2006年からやっているのですが、もともとブランドコンセプトとして「働く人の相棒」というものがありました。「相棒」という言葉のなかには、ただ前向きに応援するというよりは、ときには厳しいことを言ったり、でも慰めるようなことも言ってくれたりと、「近くにいて、いろいろ言ってくるヤツ」みたいなニュアンスが含まれていると思います。 佐藤:そういった、商品や企業に対する思いやイメージについての詳細は、必ず広告主からしっかりとした説明があるものですか? 福里:ないときもあります。ただ、オリエンテーションで熱量高くたくさん話してくれる人がいる企業は、広告もうまくいく可能性が高いと感じます。 佐藤:なぜですか? 福里:売れる、売れないなどではなく、その人たちが「これが本当に世の中に必要だ」と感じて生まれたものだというのが伝わってくるからですね。それが熱量として表れるのだと思います。 たとえば、日本マクドナルドさん。数年前から明らかに広告が活性化していることがわかると思うんですが、それはズナイデン房子さんが広告のトップに立ったことが大きく影響しています。彼女の判断力や思いが強く出ているから。 佐藤:広告主に熱量があれば良い広告が生まれやすい、と。 福里:個人に熱量があるだけでは難しくて、そこにはある程度のセンスが必要だとは思います。良いと思うクリエイターを見つけて、どんどん声をかけるような姿勢も大切です。 ・「こうじゃなきゃダメ」はない 佐藤:データに基づいた要望はあるものの、それ以外はあまり出てこないということもあると思います。そういうときは、どうしていますか? 福里:どうするかというと、それなりに頑張る。 佐藤:それなり? たとえば、要望をどんどん引き出す質問をするとかはしないんですか? 福里:たとえば、「これを言ったほうがスコアが上がる」とか「これは絶対に言ってほしい」といったことを言われたら、そういった条件をしっかりクリアした上で、イメージに合うものを作るようにします。 佐藤:なにか、そうするようになったきっかけはあったんですか? 福里:富士フイルムのCM『フジカラーのお店』での経験は、きっかけの一つです。フジカラーのお店を舞台に、樹木希林さんや出演者の皆さんがずっと商品の説明をするCMシリーズ。ただ、よく言われるのは「商品のことをめちゃくちゃ説明していると、つまらない広告になる」ということです。 佐藤:そうですよね。 福里:でも樹木さんが面白い人だから、お店を舞台に説明をするだけでも面白くて印象に残るようなものになったんですよね。それに「フジカラー」というブランドは、そういうイメージの方が合っているんだなと思いました。 たとえば同じ写真に関係するブランドで「キヤノン」や「ニコン」なら、もっと「カッコいい」とかが必要だと思うんですけど、「フジカラー」というと老若男女みんなが安心できるようなブランドなのかなと。 そういう経験があったので「こうじゃなきゃダメ」みたいなことよりも、いろんなことを入れ込みながらもそれなりにできることがあるなと思うようになりました。 佐藤:熱量の高いクライアントと、データを重視するクライアントがいるということですか? 福里:そこまできれいに別れるわけではないし、データを重視するから熱量がまったくないというわけでもないですよ。いずれにしても私は対応するというだけです。 私は自分自身に「どうしてもやりたいクリエイティブがある」というタイプではないから、いろんなクライアントさんに対応して、それなりに良いものを作っていくということです。 佐藤:とはいえ、クライアント側にセンスがあって面白いことをしたい人がいると、広告が成功する可能性は大きくなるわけですよね。 福里:可能性としてはそうです。集団で、多数決で決めるみたいなことをすると、どうしても丸くなっていってしまう。そうなると広告はなかなかうまくいきません。不思議なことにね。 ・広告をヒットさせられる人の共通点 佐藤:福里さんが思うご自身の強みはなんですか? 福里:それは、自分ではわかりません。強いて言えば最初に話した、その商品や企業には生まれてきた理由があって、誰かの人生と関わり合うために生まれてきているわけだから、商品と人との関係を考える。そういうところにあるのかもしれない。 佐藤:そこでいう「人」というのは、まだ見ぬ誰かということですか? それとも特定の誰かですか? 福里:どちらもあります。「こんな人が飲んでたら似合うんじゃないか」と考えることもありますし、「誰かがこんなシチュエーションで飲んでたらいいな」と考えるようなこともあります。 たとえば、某ミネラルウォーター。CMに山が出てきて、そこで人が飲んでいるじゃないですか。たしかに普通に考えるとそうなるし、そのまま描いたほうが素直な良いCMになる可能性は高いと思います。私もそうするタイプです。人と商品の関係を考えているわけですから。 佐藤:でも、そうではない考え方をする人もいますよね。 福里:若いときは、逆に考えることすらあり得ると思います。それこそ、「絶対に山だけは出さないぞ」みたいに思ってもおかしくない。「水が似合いそうな人だけは出したくない」とかね。 でも、いまはそう思わない。というか、出てきたほうがいいと思います。変に無理やり捻るよりも、素直に商品を真ん中に置いて考えたい。やっぱり、ど真ん中で商品を捉えたいという気持ちになっています。 佐藤:それは福里さんの好みなのか、それとも消費者にとってその方が良いと思うんですか? 福里:消費者にとって。というよりは、商品にとってかな。CMを作るプロセスにおいてひとつ良いのは、プランナーとディレクター(演出家)が別の人だということです。すると「ダメ出しをする人が誰もいなくて不安になる」ようなことはなくなります。 佐藤:組むディレクターは、どうやって決めるんですか? 福里:その企業に合っていそうな人にお願いすることが多いです。たとえば映画的なトーンが得意な演出家は人に深く届けたいときに合いそうとか、そういった作風と企業の関係は、演出家の作ったものを見ていればある程度わかります。 あとは「うまくいきそう」という感覚は意外と大事です。立て続けにヒットを出していて「なんか、うまくいっているぞ」という印象がある人。これは能力だけの話でもないので、難しいんですけどね。 佐藤:広告をヒットさせられる人の共通点はなんだと思いますか? 福里:結局のところ広告は、世に出してみないと良し悪しがわかりません。でも「なんだか広告のヒットが続いているな」と感じる企業はある。そう考えると、その裏にヒットさせている個人の存在があると思いますよね。でも、一人だけでやろうとするとうまくいかないんです。 先ほどの演出家の話もそうですが、周りの手をうまく借りている人はうまくいっていることが多いと思います。もちろん本人のセンスも必要ですが、それ以上に、そのセンスでどんなクリエイターの手を借りられるかが重要。その相乗効果で、最終的に広告がうまくいくのだと思います。
鈴木 梢