結婚と離婚を繰り返すニコラス・ケイジ「この人、正気かしら」と戸田奈津子がCMで共演したときに驚いた彼の素顔とは
長場雄が描く戸田奈津子が愛した映画人 vol.27 ニコラス・ケイジ
字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子さんは、学生時代から熱心に劇場通いをしてきた生粋の映画好き。彼女が愛してきたスターや監督の見るべき1本を、長場雄さんの作品付きで紹介する。
「この人、正気かしら」
ニコラス・ケイジといえば浪費家で、結婚と離婚を繰り返すアップダウンの激しい“アブない人”のイメージがありますよね。 私も何度か通訳をしたことがありますが、来日時に、遊園地に置くような特大サイズのゴジラのフィギュアを買うのを見て「この人、正気かしら」と思ったことがあります(笑)。フランシス・フォード・コッポラ監督の兄が彼のお父さんで、大学教授だったそう。 天才として知られるフランシスが劣等感を抱くほど優秀な人だったと聞きました。 私が選ぶ彼の代表作はなんと言っても『リービング・ラスベガス』(1995)。あの映画はよかった! 落ちこぼれ、酒におぼれる男を彼は見事に演じていました。実は私は彼と一度、CMで共演をしたことがあるんです! 場面は記者会見の設定で、私は隣に座っているだけでしたけれど、「本番」と言われた途端にニックの目が据わるというか……。 それまで普通に私と楽しくおしゃべりしていたのに、パッと雰囲気を切り替える。本物の俳優さんとはこういうものか、と心底驚きました。『リービング・ラスベガス』は、そんな彼のお芝居のうまさを堪能できる作品です。
『リービング・ラスベガス』(1995)Leaving Las Vegas 上映時間:1時間51分/アメリカ
アルコール依存症により会社をクビになった脚本家のベン(ニコラス・ケイジ)は、死ぬまで酒を飲み続けようとロサンゼルスからラスベガスへ向かい、街で出会った娼婦のサラ(エリザベス・シュー)と一夜を共にする。程なくしてマフィアの男と別れたサラは、孤独を抱えるベンと共に同居生活を始めることに。ジョン・オブライエンの自伝的小説を原作に、マイク・フィギス監督が実写化。ニコラス・ケイジは本作でアカデミー主演男優賞を受賞した。
ニコラス・ケイジ
1964年1月7日生まれ、アメリカ・カリフォルニア州出身。叔父は映画監督のフランシス・フォード・コッポラ。『初体験/リッジモント・ハイ』(1982)で映画デビュー。『月の輝く夜に』(1987)『ハネムーン・イン・ベガス』(1992)でゴールデン・グローブ主演男優賞にノミネートされ、『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞受賞。以降、『ザ・ロック』(1996)『フェイス/オフ』(1997)『60セカンズ』(2000)『ナショナル・トレジャー』(2004)など大作映画に出演。スター俳優として活躍するものの、2010年以降は出演作の興行的な失敗が続き、メジャースタジオからのオファーが途絶える。『マッド・ダディ』(2018)『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』(2019)『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(2021)など低予算映画への出演を経て、久々にメジャースタジオ製作作品にカムバックした『Renfield』(2023)や、A24製作のコメディ『Dream Scenario』(2023)など話題作が控えている。 語り/戸田奈津子 アートワーク/長場雄 文/松山梢