インフレ期待の改善続く、物価ノルム変化を日銀注視-利上げ後押しも
(ブルームバーグ): 近年の物価上昇と好調な賃上げを受け、日本経済のインフレ期待が改善を続けている。日本銀行は追加利上げも念頭に、これまで根強かった賃金や物価は上がらないことを前提とした考え方や慣行(ノルム)の変化を注視している。
物価研究の第一人者で日銀出身の渡辺努東大大学院教授が毎年実施している調査によると、日本の家計のインフレ予想は、2022年の調査で米欧並みの水準まで高まり、23年と24年もその水準を維持している。今年は回答者の54%が「いつも買う商品の値段が10%上がっても同じ店で買い続ける」としており、同様の調査を行っている5カ国では米国の59%に次ぐ高さ。53%の英国とほぼ同水準となっている。
日銀の調査でも、3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で企業が想定する消費者物価指数(CPI)の前年比が5年後まで2%超を維持。「生活意識に関するアンケート調査」で先行き物価が「上がる」と回答した人の割合が前回から増加した。物価連動国債の利回りから算出するインフレ期待であるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)も先週、一時1.5%を初めて超えるなど市場の見方も変化している。
植田和男総裁は10日の国会答弁で、企業の賃金・価格設定行動の変化などを踏まえ、賃金と物価が上がりにくいことを前提としたノルムは「かなり変わり始めている」との認識を示した。インフレ期待の改善を示す一連の動きは、植田総裁の見方を裏付けるもので、日銀の追加利上げを後押しする材料になり得る。
インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは、日本のインフレ期待の強まりは「日本経済にとって大きな変化だ」と指摘。その上で、「よほどの政策ミスがない限り、デフレマインドに戻ることはないだろう」との見方を示している。
日銀が26日の金融政策決定会合後に公表する新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、ノルムの変化についてどのように表現するかも、次の利上げのタイミングを占う意味で注目される。前回1月は、こうしたノルムが残り続ける場合は賃上げの動きも強まらず、物価が下振れる可能性があるとしていた。