ラーメン×とんかつ=背徳の味!? 岡山で愛されるソウルフード「かつラーメン」とは
ラーメンにとんかつをのせた魅惑のグルメ「かつラーメン」。全国的にはあまり知られていないが、ハイカロリー同士を組み合わせた「背徳の味」とも言えるこのメニューは、岡山県内のラーメン店では定番化しており、ソウルフードとして親しまれている。なぜ、かつラーメンはここまで浸透し、岡山県民に愛され続けているのか―。老舗からニューウェーブまで、提供するラーメン店を取材し、その魅力に迫った。 【写真】まるでかつの花びらや~! インパクト抜群のかつラーメンはこちら 岡山のかつラーメンの歴史は長い。岡山ラーメン学会の黒瀬昌彦会長(71)によると、その始まりは昭和30年代という。「うどんに天ぷらをのせるような感覚。かつの衣から出る油がスープに溶け込むことでうま味が増す」と黒瀬会長。学会の調べによると、現在、かつラーメンを提供する店は岡山県内に150店ほど。「県内のラーメン店の3店に1店程度は提供している計算で、他県にこれほどまである地域はない。岡山独自のラーメン文化として発展している」と言う。 ■老舗を調査 まずは老舗ラーメン店をリサーチ。訪れたのは、昭和22年に新見市で創業した「山金」の岡山本店(岡山市南区新保)。透き通った黄金色のスープに、100グラムの立派なとんかつが浮かんでいる。 先代の池上美代子さんが昭和50年代初めに考案した。「チャーシューが豚なので、とんかつも合うと思った。うちのラーメンは、祖父が作っていた鍋焼きうどんのスープをベースにしたあっさり味で、揚げ物を入れてもくどくならない」と話す。 ただ、奇抜なアイデアだっただけに、先々代である母親は猛反対。店に3カ月出てこなかったという。そんな母の声とは裏腹に、今も残る人気メニューに。県外から来た人からも「初めて食べたけど、おいしい」と喜ばれるそうだ。 現在は山金の店員として3年間働いていた北見彰彦さん(43)が、その味を守ろうと代表として引き継いでいる。価格は1000円。 さらに取材を進めると、「山金」よりも前に提供を始めた店を発見した。昭和23年創業の「浅月」本店(岡山市北区奉還町)。豚骨の香りが漂う店前には、大きく「勝ツそば」の文字が書かれた写真付きのポスターが飾られていた。 先代の柳原雅江さん(77)によると、創業者である父が客から「関東にとんかつがのったラーメンがある」と聞き、試しに作ってみたところ、こってり系の豚骨しょうゆスープにもかかわらず、とんかつの油で味がまろやかになったという。確かに食べてみると、油によって濃厚なスープの口当たりが良くなり、さらにおいしさが引き立つ。あっさりからこってりまで見事にマッチしてしまうのが、〝かつラーメンマジック〟だ。若者だけでなく、当時はお金がなくて食べられなかったというお年寄りが憧れの味として注文することもあるそうだ。価格は1200円。 ■異色のコラボ ラーメンの濃いスープにプラスして揚げ物―。なぜ、このようなコラボが誕生したのだろうか。黒瀬会長は「岡山の中華料理店のメニューには古くからラーメンとかつ丼がよくあり、セットで注文する人もしばしば。二つは県民にとって不思議な組み合わせではない。そんな中、一緒にしたかつラーメンが誕生したのでは」と推測する。 「岡山はとんかつ好きが多い」という説もあるようだが、総務省統計局の家計調査(2021~2023年の平均、都道府県所在地や地方別)によると、カツレツ(豚肉以外の肉も含む)の1世帯当たりの年間支出金額は岡山市が1917円で52市・区中31位。全国平均の2175円にも届いておらず、1位の福井市(4039円)の半分以下となる。このデータを見る限りでは、必ずしも「岡山=かつ好き」というわけではなさそうだ。 ■公共施設にも登場 複数の公共施設でもかつラーメンが食べられるのが岡山にしっかりと根付いている証しかもしれない。岡山県運転免許センター(岡山市北区御津中山)の食堂にある「カレーラーメン」(700円)も、ドーンとかつが鎮座している。うどんつゆとカレーを混ぜたスープは、かなりとろみがあり、カレーうどんの中華麺バージョンといった感じだ。かつが沈まないので、最後まで衣のサクサク感が楽しめる。 食堂を2015年から運営するのは東岡山給食センター(岡山市)。かつ入りのカレーラーメンは、前の業者から提供していたメニューで引き継いだそうだ。1日100人ほどが利用する食堂の中で売れ行きは数食程度。必ずしも人気とは言えない。当初はメニューから外すことも考えていたが、センター職員に根強いファンがおり、「やめないでほしい」との要望から続けているそうだ。 このほか、かつラーメンは倉敷市役所、倉敷市水島支所の食堂でも提供している。 ■ニューウェーブも まるで花びらのようにどんぶりの縁をぐるりとかつで囲んでいるのは「168」(瀬戸内市長船町長船)。低温でじっくり火を通したピンク色のレアチャーシューも彩りを添える。「映えるラーメン」として注目を集めており、インスタグラムでも「ボリュームが凄い」「ワクワク感が爆発しちゃうビジュアル」といった文章とともに、たくさん写真が投稿されている。 店主中谷真紀さん(50)は、フラワーアレンジメント講師をしていた経験から、味はもちろん、盛り付けの美しさにもこだわりを持っている。とんかつはあえて薄くすることで、麺の湯で上がりに合わせて、かつが揚がるように調整している。 店は2018年にオープン。香川県・直島出身の中谷さんはかつラーメンの存在すら知らなかったものの、知人から「岡山でラーメン店をするなら、かつラーメンは外せない」と言われ、メニューに入れたという。インパクトのある見た目から、2020年夏ごろに岡山ラーメン学会のフェイスブックに写真が投稿されると、翌日には長蛇の列が。たちまちかつラーメンの人気店として注目されるようになった。 「ラーメンもとんかつも食べたいけど、時間がないというせっかちな人がいたから考案されたと聞いたことがあるけど、真相はよく分かりませんね」と中谷さん。「勝つ」にかけて、受験シーズンに合わせて食べる人も多いそうだ。価格は900円。 味、見た目、ボリューム…。さまざまな要素で岡山県民をとりこにしているかつラーメン。まだ食べたことがないという人は、ぜひ一度ご賞味あれ。