「都会で農業」高まるニーズ 宅地から農地へ転換進む
生産緑地指定 都が規模要件緩和
東京都で、農家が宅地を農地に転換する動きが広がっている。都が2018年度から転換を支援する事業を始めたところ、22年度までに11区市にある26カ所・1・5ヘクタールが農地になった。法改正で小規模農地も生産緑地に指定できるようになったことに加え、都会でも農業をしたいという需要が高まっていることが背景にある。 15年に都市農業振興基本法が成立。17年には生産緑地法が改正され、生産緑地の指定要件が500平方メートルから300平方メートルに緩和された。これらを受けて、都は18年度に、「農地の創出・再生支援事業」を開始した。農家が所有する住宅や賃貸アパートを農地にする際の経費(建物の基礎撤去や客土)を補助する。 22年度までに転換された農地1・5ヘクタールのうち、ほとんどが広さ10アール未満の生産緑地。都によると、後継者のいる農家の規模拡大や、市民向けの農園として利用するケースがある。
就農した息子に「将来は農業だけで」
ハウス7棟で季節野菜を育てる、東大和市の中村勝司さん(74)は、自宅の駐車場と作業小屋3・4アールを農地にし、新設したハウスで22年度からトマトの養液栽培を始めた。規模拡大は就農した息子の剛さん(45)のため。勝司さんは「将来は農業だけで生活ができるようになってほしい」と背中を押す。 練馬区の榎本多良さん(74)は18年、6・4アールの宅地に建てた築30年の賃貸アパートを取り壊し、農地に整備。区の老人クラブに無償で貸し出した。榎本さんは「クラブの会員が生き生きと農作業に励む姿を見て、本当に農地を残してよかった」と笑顔を見せる。 区では既に5件・34アールの農地を創出。都市農業課は「潜在ニーズはある。区の補助事業を使い、創出した農地での営農支援にも力を入れたい」と話す。 都は、23年度から同事業を衣替えし、「未来に残す東京の農地プロジェクト事業」を新設した。防災井戸の設置や簡易直売所の開設、区民農園の整備も支援する。都農林水産部の河野章・農業基盤整備担当課長は「規模拡大に前向きな農家に加え、区民農園の開設を検討する自治体も応援したい」と語る。
日本農業新聞