「もっと体をぶつけに行ってもよかった」戸田和幸氏が語るボランチ論
決勝トーナメントの戦いが繰り広げられているサッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会。残念ながら日本はその舞台にはいない。攻撃的なサッカーを掲げながら、W杯という大舞台で「自分たちのサッカー」を十分には発揮できないまま、グループリーグで敗退してしまった。トルシエ・ジャパンでボランチを務めた元日本代表の戸田和幸氏に、日本代表の戦いぶりやボランチ論について聞いた。
現役時代の戸田氏はボランチとして、激しいマークや闘志あふれるタックルなどハードな守備が持ち味だった。そんな戸田氏から見て、今回の代表のボランチはどう映ったのだろうか。 「ポジションだけで語るのはサッカーとしては難しい」と前置きした上で、戸田氏は、W杯本番でボランチの顔ぶれを固められなかったことを指摘する。「なかなか(ボランチの)選手が決まらなかった。特にセンターライン、ボランチはチームの肝になる。そこが毎試合スタメンが変わったり、90分間プレーできない選手が先発して交代した。監督が悩んだところかもしれないが、結果としてチームに影響したのかなとは思う」。 ボランチに必要な要素は何なのか。アジアを越えたレベルで戦うためには、しっかり走れること、ディフェンスも含めて相手に対してひるまずに挑んでいけるメンタリティ、そしてボールを運んでつないでいける技術、を挙げた。ただ「ベースの部分のフィジカルとメンタルにある程度のものがないと、どんなに素晴らしい技術や判断能力があっても、目の前の相手との戦いに負けていては出せない」とフィジカルとメンタルがあってこその技術力と強調した。
初戦のコートジボワール戦は、戸田氏には「少しナイーブに映った」という。相手選手に寄せてはいるがボールを奪いに行くというわけでもなく「相手は気にせずプレーしているように見えた」。戸田氏は、相手が嫌がるしつこいディフェンスをして、試合に集中させず、いい判断ができないようにすることが大事だと語る。「自分より能力が高くて身体的にも強いときにどうやって自由にプレーさせないかも一つの駆け引き。もっと体をぶつけても良かった」。 自身も現役時代、日本代表ボランチとして、オコチャ(ナイジェリア)、トッティ(イタリア)、ストイコビッチ(ユーゴスラビア)をマークした経験を持つ。「きれいごとは言っていられなかった。僕がこの人を自由にしたら(チームが)負けると思っていた」と振り返る。 相手のフィジカルの強靭さを思い知らされたエピソードがある。2001年のコンフェデ杯決勝で、日本はW杯王者のフランスと戦った。「ビエラに対して、ボールを奪いにタックルしたが、遅れて足に入ってしまった。渾身のタックルでファールだったが(ビエラは)何の痛さも表現していなかった。そういう人がいるすごさを知った」。 ただ自身のプレーに対するアイデンティティは揺らがなかった。「ファールはするかもしれないが、そういうプレーをボランチとして意識していた」。少しでも抵抗し、相手に自由を与えないことが重要だと力を込める。