『碁盤斬り』草なぎ剛×白石和彌監督が対談!同い年である2人の共通の記憶は「SMAPが辿ってきた道」
饒舌は自信の表れだ。草なぎ剛が『孤狼の血』(18)、『凪待ち』(19)の白石和彌監督と初タッグ。囲碁を武器にした武士によるリベンジ時代劇『碁盤斬り』が5月17日(金)から公開される。草なぎが扮するのは、いわれなき罪で城を追われた浪人、柳田格之進。碁の名手でもある格之進は愛娘と貧しい暮らしを送りながらも、正々堂々とした碁を打ち続けていた。そんな彼の耳に冤罪事件の真相がもたらされる。 【写真を見る】2人で仲良くおしくらまんじゅう!満面の笑みでのピースがすてきな撮り下ろしショット 白石監督の人柄やセンスについて「慎吾ちゃんから聞いていた」という草なぎは、鬼才との念願叶った共同作業に喜色満面。白石監督とのツーショットで実施したインタビューも終始饒舌フルスロットル!それは完成した映画にいまだかつてない手応えと自信を持っているからこそ。まるでラジオ番組のような軽妙なロングトークをお届けする。 ■「白石監督の撮影にはすべて意味がある。まさにセンスの塊」(草なぎ) ――白石監督といえば、香取慎吾さん主演で『凪待ち』を撮っています。草なぎさん自身、白石監督は気になるクリエイターの一人だったのではないですか? 草なぎ「白石監督については(香取)慎吾ちゃんからはとても穏やかで優しい監督だとか、流血バイオレンス映画を撮る人とは思えないという話を聞いていました。慎吾ちゃんは人見知りなので普段はあまり監督さんの話をすることがないので珍しいなと。しかも『凪待ち』は凄い作品で、役者としてのいまだかつてない慎吾ちゃんを見せてくれた気がして、そんな作品を撮った白石監督への興味は湧くばかりでした。それで僕も白石監督の事が気になって色々と調べていくうちに、僕と同年代だとわかったりして。そんななかで今回のお話をいただいたわけで、撮影に入るのも格別の想いがありました」 ――白石監督も「香取さんの次は…」と草なぎさんを意識されていましたか? 白石「稲垣吾郎さんが阪本順治監督と『半世界』を撮っているので、『ほかの監督は新しい地図のメンバーとなにを撮っているのかな?』とやはりどこかで意識するわけです。草なぎさんに関しては、出演作品をすべて代表作にしていく人という印象があって、なかでも僕は『任侠ヘルパー』が好きなんです。脚本を担当した池上純哉さんとは、その後『孤狼の血』で組んだこともあって。なおさら俳優、草なぎ剛は気になる存在でした」 ――そして本作で初タッグ。しかも白石監督にとって初の時代劇。白石監督は『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)を撮り終えた段階から時代劇を熱望されていたわけですが、実際に挑戦してみての感想は? 白石「もう楽しいことしかありませんでした。スマホの寄りを撮らなくていいとか商品ラベルを気にしなくていいとか(笑)。これは半分冗談ですが、時代劇は純度の高い映画作りが出来るジャンルだと感じました。言葉使いや所作、時代考証など常に考えながらやるので、現場の集中力も途切れない。まあ、現場の士気が高まってテンションが乗って来ると『時代劇的正しさなんてどうでもいい!』という気持ちにもなったりしましたけど(笑)」 ――草なぎさんは白石監督との初タッグはいかがでしたか? 草なぎ「クランクイン前の衣装合わせの際に、部屋の隅にすでに夕景のミニセットのようなものが組まれていて、そこで写真を撮ったりして作品の世界観を共有する場があったことに驚きました。そこに写っている自分の姿を見るだけで、白石監督がどのような作品を作りたいのか意図がわかるというか。衣装合わせでそこまでやったのは初めてで、その段階で『この監督、違うぞ』と」 白石「衣装合わせの際にちょっとしたライティングで見てみると、普通の照明下でやるよりもイメージが湧くんです」 草なぎ「もうその段階で白石監督は撮影が大好きなんだろうとわかりました。長く色々な現場を経験されているのが体から滲み出しているというか、自分でやらなくてもいいことも率先してやりますからね。脚立とかを片付けるのも一番早い(笑)。その姿勢はいい形で僕らに影響を与えるわけです。撮影自体も余計なものがない。なにを撮るべきなのかをすべて把握していて、『とりあえず撮っておくか』ということがないんです。あったとしても、そこにはちゃんと意味がある。まさにセンスの塊。色々な俳優さんが白石監督と仕事をしたいと言うのがわかります」 ■「役作りはしません。なぜならば全部が自分だから」(草なぎ) ――白石監督から見た草なぎさんの印象はどうでしたか? 白石「草なぎさんについては香取さんから『つよぽんは台本を真っ黒になるまで何度も読み返して、腑に落ちないところがあると徹底的に話し合う』と聞いていたので、これは答えをちゃんと用意しないとマズイと焦りました。でもいざ会って脚本について『わからないことが一つもない』と言われた時は安心したと同時に、構えていたぶん、拍子抜けしました(笑)。そもそも草なぎさんはずっと自然体でしたね」 草なぎ「たしかに昔は台本が真っ黒になるまで読み込んだり書き込んだりしていました。でも35歳を境に、もっと大事なことがあるんじゃないかと思って…。早く寝よう!となりました(笑)。35歳までは台本を何度も読んでプランを考えてガッチガチに固めて撮影に臨んでいましたが、きっと不安だったからだと思います。でもリアルな人間は先の事なんてわからないし、未来を見据えて生きるなんてことはできないわけですから、それであれば人間を演じるうえでどんなプランで芝居をしようかなんて考えるのは違うのかなと。例えば刑事ドラマで犯人を知って演じるよりも、知らずに演じて犯人役と初めて対峙して驚いたほうがリアルな感情が役にそのまま乗るだろうし。そのほうが僕としても新鮮で楽しいんです」 ――作品に対する向き合い方を変えたことで俳優業への意識も変わりましたか? 草なぎ「余計な考えを持たなくなったことで楽しさが増しました。どんな役であろうとも、結局は自分なんだと思うようにもなりました。35歳まで“演じる”とは違う自分になることだという考えに凝り固まっていましたが、いまはむしろ自分が出ていないとできないというか、観客の皆さんに伝わらないと思っています。だから役作りはしません。なぜならば全部が自分だから」 白石「とはいえカメラ前ではしっかりと侍になるんです。こちらが細かい芝居をつけたり演出をしたりすると、ずっとそれをキープする。でもカメラ前から離れると超自然体。だから現場に緊張感を与えることがない。クライマックスの殺陣の撮影ではお疲れになっているはずなのに、『コーヒーは毎日飲んだほうが良いですよお』とか、ごく日常的な会話をしてくれました。ほんと自然体。でも本番になるとガラッと変わるんです」 草なぎ「監督、そこはガラッと変わらないと変じゃん!格之進で『コーヒー飲んだほうが良いよお』はマズイって~(笑)」 ――ちなみに草なぎさんは撮影現場で座らないというのは本当ですか? 白石「本当です。座っている姿はほとんど見たことがないです」 草なぎ剛「現場で座らない高倉健さんを見習って、僕も“高倉剛”になろうと思って(笑)」 ――そのスタイルはいつごろから? 草なぎ「35歳!僕のターニングポイント、サンゴ~(笑)」 白石「急に変な言い方(笑)!」 草なぎ「なぜ座らないのかというと理由は単純で、立っているほうが楽だから。一般的には座ったほうが楽だとされるけれど、僕は座ると謎に疲れちゃうし眠くなる。だから立っているんです。それに時代劇だと帯を巻いたり腰に刀を差したりしているので、座らずに立つというのは理にかなっています。和服や御着物って座りにくいでしょ?時代劇において立っていることがどれだけ楽か。みんな知らないだけです」 白石「草なぎさんは立っているにしてもさりげないですからね。周囲に変な気を使わせないのが凄いところです」 草なぎ「周囲にちゃんと説明しますからね。座らずに立つ理由を。5秒で寝ちゃうからって(笑)」 ■「囲碁の対局シーンは、演出をシンプルにしながら画作りと音楽で魅せていく」(白石) ――『麻雀放浪記2020』(19)で坊や哲だった斎藤工さんが、格之進と因縁のある武士、柴田兵庫として碁を打つ姿には痺れました。転生したのかと。白石和彌ユニバースですね。 白石「ユニバースなんてそんな大層なものではないですが、遊び的な意味ではそのねらいもたしかにあります」 草なぎ「工くんは僕が主演したテレビ朝日系ドラマ『スペシャリスト』の最初の犯人役だったんですよ。その特番シリーズが成功したことで連続ドラマ化したという背景があるので、工くんに対する思い入れがありました。しかも今回も敵役ということで、僕としては集大成という気持ちを込めて対峙しました。自分としてもいいシーンになったのではないかと思っています」 白石「ちなみに格之進と兵庫の囲碁勝負の際、背景に富士山が見える演出をしました。現代では高い建物があるから見えない位置なのですが、当時は実際見えたはず。ならば富士山は入れておきたいよねと」 ――CG処理で行ったのですか? 白石「CGではないです。時代劇なので撮影手法も昔の時代劇でやっていたような形でやろうと思ったので。ベニヤ板を切って色だけ塗ってもらって、それを背景セットとして置きました」 ――過去の時代劇からヒントを得たシーンもあるのでしょうか? 白石「時代劇は結構観ました。なかでもヒントにしたのは『人情紙風船』。長屋の住人たちが楽しくお酒を飲むシーンは『人情紙風船』にもあって、長屋の奥に先がないのは彼らに未来がないことの隠喩だと山中貞雄監督はインタビューで語っていました。それに習って『碁盤斬り』でも長屋の屋根の上に工事のための職人を配置しています。 吉原大門の前の橋は加藤泰監督の『緋牡丹博徒 お竜参上』に出る今戸橋の図面を基に同じスタジオで作りました。脚本では橋とは書いていなかったものの、クライマックスの大門前でドラマチックなことが起こるので、それをどう見せようかと悩んでいた時に美術の今村力さんが提案してくれました。実際の吉原大門は劇中セットよりも大きいです。ただリアルに再現しようとすると予算の問題があるので、ならば橋も含めてデフォルメしようと。デフォルメするならばどんな形がベストなのか?吉原のセットはそんな逆算から生まれました」 ――囲碁の対局シーンでのこだわりも教えてください。 白石「それこそ参考に、『神の一手』やチェスの『クイーンズ・ギャンビット』も観ました。でも今回やろうとしている時代劇の演出法とはマッチしない気がしたので、演出はシンプルにしながらカメラの質量を上げた画作りと音楽で魅せていこうと。それによって画に重みが出るし、格之進が向き合う囲碁勝負の精神性が浮かび上がるのではないかとの計算もありました」 ――たとえ囲碁のルールがわからなくても、静謐な演出によって白熱さと緊張感が醸し出されているように思いました。 白石「将棋やチェスと違って、ルール的にも囲碁を撮るのは難しいと思います。将棋やチェスは駒を取るアクションがあるけれど、囲碁にはそれがない。とはいえ攻められた側に『あ!』とリアクションをさせるのはトゥーマッチ。オーバーにせずいかに対局の緊張感を出すのか、そこは悩みました。國村(隼)さん演じる萬屋源兵衛との最初の対局シーンは一度編集してみたものの、何カットか足りない気がして後日追加撮影をしました。初めての事なので実際にやってみないとわからないことだらけですね(笑)。そこでコツを掴めたので残りの対局シーンはスムーズになりました」 草なぎ「こだわりますね~!まさにセンス」 ■「僕らはSMAPがやってきたことを通して、世の中を見ていたことが多かった」(白石) ――白石監督と草なぎさんは共に1974年生まれの同世代。同年齢だからこその阿吽の呼吸もありそうですね。 白石「それは絶対にあると思います。会話をしていても、見てきたもの通ってきたものが似ていて、その感覚が共通言語のようになっているんです。もっと遡れば僕らは草なぎさんたちSMAPがやってきたことを通して世の中を見ていたことが多かったから、お互いの記憶がダブるのは当然と言えば当然なのかもしれません。僕らの記憶=SMAPが辿ってきた道みたいなところがありますよね。いまこうしてお仕事させてもらうことが不思議で、いまだにフワフワしています(笑)」 草なぎ「白石監督はその日の撮影が終わるたびに握手をしてくれるんですが、実は僕も握手をするタイプ。握手されると『明日も頑張るぞ』と思えるから。監督と役者の言葉を介さない意思の疎通がそこで生まれる気がして、握手コミュニケーションは結構いいと思います。しかも白石監督は現場でブーツを履いているんです。普通は運動靴とか動きやすそうな靴を履きますよね?でも白石監督はブーツ。しかも偶然にも僕が好きなタイプの古き良きエンジニアブーツ!それもうれしかった。僕おススメのブーツを教えたので早く買いに行ってほしいです」 白石「草なぎさんはファッションチェックが厳しいので、現場になにを着て行けばいいのか結構悩みました(笑)」 ――信念の男・格之進のように、お二人には仕事をするうえで曲げられない信念はありますか? 草なぎ「遅刻をしない事でしょうか。時間は有限ですから、約束の時間にきっちりと合わせる。そのために余裕を持って行動することを心がけています。役作りしないとはいえ、心の準備は必要ですから、現場に早く入って準備を整えて、深呼吸するくらいの余裕を作るよう意識しています。そんな心構えが生まれたのも、もちろんサンゴ~から」 白石「映画監督として、好きな題材を好きな俳優と作り続けたいという信念はあると思います。自分が嫌だと思うもの納得のいかないものをやり始めたら仕事が荒れる気がするから。そんなことにならないよう、草なぎさんを見習って僕も自然体で仕事をしていきたいです」 草なぎ「白石監督も自然体です。そして自然に俳優の良いところを引き出す術に長けています。『凪待ち』で慎吾ちゃんもバッチリハマって、『碁盤斬り』で僕もバッチリとハマっちゃって。題材によって役者さんを化けさせる監督ですから、いつか吾郎さんと組んでください。新しい地図をコンプリートしてほしい。その際は僕を再び起用してくださいね。監督の作品には音尾琢真さんがよく出ていますが、僕は第二の音尾さんポジションをねらっているので。“音尾剛”としてよろしくお願いします!」 白石「草なぎさん、どんどん名前が変わりますね…」 取材・文/石井隼人 ※草なぎ剛の「なぎ」は弓へんに前の旧字体、その下に刀が正式表記