26年ぶりのアルバム、江口洋介が音楽活動を再始動「リラックスが重要だと、音楽が教えてくれた」
音楽活動を経て「俳優の現場がすごく新鮮に」
──作詞・作曲はどのようにされているのでしょうか。 曲はいつもギターで作りますが、メロディーが出てきます。ちょっとアップめの曲をイメージして弾き始めて、一から作る時もありますし、メロディーが思い浮かぶと携帯で録って。後で聞いて、引っかかったものにAメロをつけたり、大サビをつける場合もあります。 ──ブランクはあっても、その感覚は残ってたんですね。 自分では全く違和感なくやってますが、「急に音楽やり始めた」とか、「江口洋介って俳優じゃないの?」と言われそうで(笑)。俺が歌ってたことを知らない人がいることや、もしかしたら知らない人がほとんどだということも踏まえながら、サウンドはもちろん違いますが、前のアルバムの延長線上にあるような曲調を選びました。いきなりレゲエやブルースをやったら驚かれると思うので、ロックを基本にして、少しビルドアップした感じの曲を作りました。 ──確かに、以前のアルバムと地続きのような気がしました。今でも『愛は愛で』などは耳に残ってるので、そういう曲の延長線上にあるように感じました。 そう言ってもらえるとうれしいです。 ──音楽活動は俳優業にどのような影響がありましたか? 再稼動した時に、自分自身も音楽をやることによって鼓舞されたというか、音楽のパワーをすごく感じたんです。そして、音楽活動をしてから俳優業に戻ったら、俳優の現場がすごく新鮮に感じて。俳優業はずっと連続してやってるので、そこに音楽が挟まるとフラットになるんです。そこから、また俳優業に戻ると、俳優という仕事を客観的に見ることができて、違う視点でやってみようかと思えたんです。 ──違うアイディアが生まれてくるような感覚でしょうか。 音楽活動と俳優業、両方に相乗効果があったと思います。 ──具体的にはどのような効果があったのでしょうか。 いい意味で、俳優業でも力が抜けたような気がします。気張ってやらなくても大丈夫、リラックスが重要だと、音楽が教えてくれたんだと思います。曲を作るときは大変だけど、プレイするときは抜いてやるので。もしかしたら、芝居もそうかもしれないですよね。それぐらい音楽が好きなんです。 ──音楽が好きなことを再認識されたんですね。 もしかすると、昔より今の方がバランスはいいかもしれない。 ──今、このときに再稼働するのも必然だったのかもしれないですね。 そういうことをなんとなくイメージしながら走ってきた気もします。7、8年かかって、やっとここに来たのかなって。 ■ 俳優として「イメージを壊したくてしょうがなくなる」 ──俳優に集中していた時期にも、たくさん転機があったと思います。特に、2008年の『闇の子供たち』はすごく印象的でした。振り返ってあそこが転機だったと思う時はいつでしょうか。 今、おっしゃっていただいた『闇の子供たち』は大きな転機でした。日本ではなかなか表現が難しい部分もある社会派映画の主人公のオファーをもらって、今までやってきたエンタメみたいなところからはすごく遠く感じましたが、よくよく考えたら俺もそういう映画を観てきたし、刺激をいっぱいもらってきました。どこかにそういう作品をやりたいという欲求があったんだと思います。 ──なるほど。 劇映画で社会的な問題を訴える方法があると教えてくれた作品です。連続ドラマでも、『ひとつ屋根の下』から『救命病棟24時』のように、全く違うキャラクターを自分で選んでるんですよね。イメージを壊したくてしょうがなくなるんです。 ──役のイメージを作られたくない、と。 一つの役を長くできる人もいらっしゃいますが、それはすごいことだと思うんです。俺は、コメディから三枚目、シリアスまで全く違うものをチョイスするから。一つのイメージに縛られたくないし、これは俺じゃないと思いたくないと思ってやってると、発見があるんです。 ──ヤクザという役柄でも『孤狼の血』と『コンフィデンスマンJP』では、土着のヤクザとインテリヤクザのように全然違ってました。 すごくいい例を言ってもらいましたけど、そうですね。例えば、ヤクザの役でもコメディだったら『ゴッドファーザー』のパロディを意識して、観直したり。『孤狼の血』は、『仁義なき戦い』シリーズを観ました。役によって、今まで観てなかったものを観たり、観たことがあったらもう1度観直しますが、そういう作業が肥やしになるんだと知ってから、よりいろんな役をやりたいと思うようになりました。 ──そういう視点で役を選んでらっしゃるんですね。 振り返ってみると、ちょっと難しいかな?と思った役の方が転機になってると思います。