BADHOP「本当に悪い奴はラップやってない」川崎の不条理な現実ーー『BADHOP 1000万1週間生活』#5
神奈川・川崎を拠点とする、8人組ヒップホップクルー・BAD HOP。来る2月19日、東京ドームでの解散ライブを控える彼らに、最後にやり残したことを清算する機会が与えられた。用意されたのは、共同生活のための一等地のシェアハウス。それに、1週間の時間と、1000万円もの大金。これが、ABEMAにて放送中の『BAD HOP 1000万1週間生活』に関する全貌である。 【写真】BAD HOPの幼いころの写真 幼少期のエピソード語る 以下より、2月3日公開の【#5】から見どころを紐解いていく。細かなネタバレもあるため、ご注意いただきたい。 ・出会いは聖美保育園 T-Pablowら思い出の場所で明かされた幼少期のエピソード 国内のヒップホップアーティストとしては、異例の大快挙。2月19日に開催を控える東京ドーム公演のチケットが、なんとソールドアウトに。そんな吉報が届いて最初のオンエアとなった【#5】ではタイミングよく、BAD HOPが幼少期を過ごした、思い出の場所を巡っていく。聖美保育園、中留公園、川崎市立川中島中学校と、どれも川崎市川崎区内にあり、彼らのルーツを語るには欠かせないスポットばかりだ。 まずは、この日のメインイベントである、聖美保育園の訪問から振り返ろう。目的は、子どもたちにおもちゃのプレゼントをするため。T-Pablow、YZERR、Tiji Jojo、Barkがまだ生まれて間もない、0歳の頃に出会った思い出の保育園への訪問を前に、メンバーが大型家電量販店のおもちゃ売り場にぞろぞろと集まり、思い思いのおもちゃを手に取っていく。YZERR曰く、パチンコを連想するらしい3Dパズルボールは避けた方が無難で、逆に現場仕事で乗ることの多いハイエースのおもちゃは、“川崎生まれだから”という理由で、早めに慣れ親しんでおいた方がよいらしい。相変わらずのギャグセンの高さだ。 また、このおもちゃ選びで特に輝いたのが、G-k.i.d。T-Pablow(一応、3児のパパ)が、リカちゃんとプリンセスの人形でどちらを選ぶか悩んだ際、「絶対、プリンセスだよ♡」と強くレコメンド(この保育園訪問でたびたび、G-k.i.dのキャプションの後ろに♡が優しく添えられていた)。さらに、人形との触れ合いについて、G-k.i.dを中心に、Benjazzyが「自分の赤ちゃんのように育てる」、Barkも「愛を学ぶもの」と共感。今後、おもちゃ選びに悩んだ際には、彼らに相談をすればよいのだろうか。おもちゃ評論家としての一面も備える、多方面に造詣の深いBAD HOPだった。 いよいよ保育園に。もしもラップを職業としていなかったら、保育士になりたかったと、以前に語っていたBark。やはり、彼の足が前のめりになり、子どもたちにも真っ先に触れ合う。小さな手のひらに挨拶のタッチをし、その後は購入したおもちゃをプレゼント。ここでは、Benjazzyが人形の髪の毛のとかし方を教えるといったハイライトも見られた(彼自身、フェードカットでとかす髪の毛もないわけだが)。 すると、T-Pablowらの面倒を見ていて、かつての先生たちが登場。当時を振り返りながら、人の話を聞かないTiji Jojo、話を聞かない以前に、違う世界に没入してしまうBarkと、メンバーの幼少期が暴かれる。そのなかで、T-Pablowは周囲のリーダーで、YZERRはマネージャー。ドッジボールをやるとなれば、T-Pablowが真っ先に声をかけ、YZERRがあぶれた子を拾っていく。さらに、“お前がそっちだと強すぎる”など、チームのパワーバランスを考慮していたなどのエピソードは、Benjazzyが驚いていたとおりで「いまと一緒」。BAD HOPを語る際、T-Pablowは心臓で、YZERRは頭脳だと喩えられることが多いが、当時から双子同士の役割があり、達哉と雄哉ではなく、“T-Pablow“と“YZERR”としての片鱗を感じさせていたことが明かされた。 ちなみに、前述のおもちゃ購入費は、約13万円。大量のおもちゃを前に、YZERRは「10年は安泰だろ」と笑っていたが、それでもたったの13万円。思い出してみてほしい。この金額を、これまで番組で使用したものに比べてみると……Tiji Jojoが韓国行きの際に購入したGUCCI 3点セットで、0.77 GUCCI。十文字幻斎の出張催眠術ですら、0.86 十文字。初日に訪れた焼肉・韓国料理マダンでの飲食代(チップ込み)だと、1.7 マダン。最後に、韓国カジノですった全額にいたっては、0.04 カジノ。……本当に、BAD HOPは1000万円全額を使って、保育園訪問を一生していたほうがいいと思う。 さらに余談だが、昨年大晦日オンエアのラジオ番組『#リバトーク TO THE DOME』(interfm)では、今回のオンエアに先駆けて、この保育園訪問の感想戦が繰り広げられていたのだが、G-k.i.dは実は「人のガキ、そんな好きじゃねぇ」らしい。Tiji Jojoがのべ10回、聖美保育園卒ではないBenjazzyすらのべ4回ほど涙を誘われていたらしいが、G-k.i.dはもちろん0回。それを聞いて、T-Pablowが「お前は現代社会から弾かれろ」とパンチラインを放っていたのが最高だった。 ・YZERR、川崎のやるせない現実を語る「本当に悪い奴は、ラップやってない」 その後は〈中留公演から変わっていないメンツでサイファー〉で有名な中留公演にて、ABEMAサイドの“仕込み”らしい中学生集団とフリースタイル対決をし、ここまでのキャリアに見合わぬ体の張り方と大火傷の模様を見せてくれた後、知る人ぞ知る川中島中学校に。 前述のフリースタイル対決にて、すでに同校の生徒と一戦を交えているとYZERRは笑い飛ばしていたが、撮影に際して学校側から提示された、校舎内に立ち入るにあたり、生徒と一切関わらないことという厳格な条件。そのほか、当時の先生は一人たりとも登場しないあたり、先ほど温かく迎え入れてくれた保育園とは打って変わって、BAD HOPに対して、まったくもって歓迎ムードでないことが伺える。 彼ら自身も深く振り返っていたが、中学時代は嫌な思い出ばかりで、とにかくイライラしていた。中学時代という意味ではなく、学校という場所で面白かったことも一度もなかった。“かわいげがなかった”という一言では到底片付けられないほど、自分たちが“してきた”こと。そして、どうしても大人たちと理解し合えなかった遺恨をいまでも突きつけられる。 BAD HOPのファンであればよく知るエピソードだが、中学2年生の頃に明け渡された、テレビも、クーラーもある“自分たちだけの教室”も初公開。実は生徒相談室だったようだが、ともかく登校時には裏口から入り、自分たちの教室に立ち入ることなく、生徒相談室に閉じこもっていることを命じられた。とはいえその1年後、YZERRとG-k.i.dは少年院送りになるのだが(YZERRが、マジカルバナナで“セルシオ30後期”を出してくるイキリヤンキーや、嵐「Monster」のサビを永遠に歌い続けるマジもんのモンスターと出会ったのもこの時期である)。 ここからが、今回のオンエアの真髄たる部分だった。当時は立ち入り禁止だった教室の学習机に腰を下ろし、中学時代を振り返るメンバーたち。たとえ話に出されたのが、川崎北部の施設に送られた友人の話(ちなみに川中島中学校は川崎南部。何度でも言うが、彼らは川崎 South Sideなので)。 ある日、Barkらが公園で遊んでいると、施設送りにされたはずの友人の姿が。この場所にいるのも理由不明だが、その足には見たこともないほど大きなタコが。「スケボーを使って歩いてきた」というが、この話で伝えたかった内容は、こうだ。人として生きる上で、“大切ななにか”が欠落していると、電車を使うという発想がそもそも生まれてこない。残念なことに、それだけの知能がないのだ。 「本当に悪い奴は、ラップやってないですね。やれてないですね」。T-PablowとYZERRに、優しい祖父母がいたように、どこか真っ当な世界への逃げ場があり、そこで“普通の感覚”を学ぶこと。それが難しく、“大切ななにか”が欠落したまま年齢を重ねても、“飛ぶ”か、刑務所に送られるか、あるいは……。 「みんながまともになれるほど、そういう環境は甘くない」「そういう環境に憧れてもいない」。YZERR自身、前回のオンエアで父親がいまだホームレスだと明かしていたが、たまたま同世代に貧困層が集まり、こうした状況に陥り……現在のような価値観が形成されたのだろう。 最終的に、人間としてまともな部分がないと、人として生きることもできないし、綺麗事ではなく、本当に酷い環境で育っている人間は、立ち直ることすらできない。YZERRが普段の調子と異なり真剣に、落ち着いて、かつ淡々と語るからこそ、そのリアルに我々も重たい気分になってしまうし、なにかを背負った感覚になる。彼らの楽曲によく“ゲットー”という言葉が登場するが、アメリカなどと比べれば、言葉が軽いと揶揄されている理由もよくわかる。ただ、目の前に当時の川崎の現実が突きつけられたら、“アメリカと比べたら……”などの過程を抜きに、単純にキツいとしか言えないはずだ。 この流れで触れるのも恐縮だが、昨年大晦日オンエアの『#リバトーク TO THE DOME』では、中学校訪問後の暴露話も。メンバーはこの日の夜、T-Pablow行きつけの居酒屋にて宴を楽しんだのだが(具体的には、ビール10杯、緑茶ハイ9ハイ、レモンサワー4杯、日本酒59杯、テキーラショット46杯、ウイスキーロック24杯、シャンパングラス10杯の合計162杯)、川中島中学校の訪問時、“邪気”を吸い取ってしまったというBenjazzy。 彼がこの日、川崎の“悪い先輩”に喧嘩を売り、昨年大晦日時点で“的にかけられている”こと(T-Pablowはこのせいで、“悪い先輩”と謝罪飲みをしたらしい。優しい)。さらに、この翌朝に鼻血を垂らしてベッドに横たわっていたこと。カメラ外で、Vingoと殴り合いの喧嘩をしていたことなど、さまざまな不祥事が先駆けて報告されていた。はたして次回、鼻血を垂らしたBenjazzyの顔面はオンエアに乗るのか。期待して待っていてほしい。
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