YouTubeで1時間超の動画が視聴される理由とは? だいにぐるーぷに聞く
日々ヒットコンテンツや人気クリエイターが誕生しているYouTube。PCやタブレット、スマートフォンといったデバイスで視聴できることから、ユーザーの視聴スタイルもさまざまだ。そんなYouTubeでは今、動画をインターネットに接続したテレビ端末「コネクテッドテレビ」で視聴するユーザーが増えているという。 【写真】だいにぐるーぷが1週間生活に挑戦した“世界一の心霊スポット” Googleによると、テレビでYouTubeを視聴するユーザー数は2021年で2000万人だったところ、2022年では3500万人に増加。2023年6月時点で3800万人がテレビでYouTubeを視聴していることを明らかにしており、その数が年々増加していることがわかる。 その背景には一体なにがあるのか。Googleは2021年7月、インドをはじめ提供してきた「YouTube ショート」を日本でも導入。これまで長尺の横型動画が主流だったYouTubeに、最大60秒という短尺の縦型フォーマットが登場したことで、フォーマットも視聴デバイスもマルチ化。そこに加えて、テレビ画面でもYouTubeを視聴する人が定着してきている。 特に日本ではYouTubeをテレビ画面で視聴するログインユーザーの25%以上が、コンテンツをほぼ (90% 以上)テレビ画面でのみ視聴、テレビでのYouTube視聴時間の50%以上が21分以上の動画をみているというデータもあり、テレビでは長尺動画をみているユーザーが多いと考えられる。 しかし、すべての動画がテレビでよく視聴されているわけではない。YouTube コンテンツパートナーシップの上妻氏によると「クリエイターは、自身のチャンネルの特性や視聴者に合わせてフォーマットを使い分けている。特にテレビ画面で視聴されるコンテンツには、企画内容や制作のクオリティが高いものや視聴者がクリエイターと一緒に体を動かすようなフィットネス系、子ども向けのものといった特徴がある」と語る。 では実際に動画を制作し、YouTubeで投稿しているクリエイターはこういったデータをどのように感じているのか。今回は数あるYouTubeチャンネルのなかでもナレーションやBGM、アニメーションなどを使用したリッチコンテンツを早い段階から制作し、支持を集めている「だいにぐるーぷ」のリーダー・岩田涼太氏と演者兼ナレーターの飯野太一氏に、テレビ視聴が増加する前後のコンテンツ作りの変化やショート動画全盛期のチャンネルの動向について話を聞いた。 ・当時は3分程度の動画が主流……長尺動画が飛躍の鍵に ーーYouTube動画におけるナレーションの投入がほかのチャンネルより比較的早かった印象があります。テレビ番組にも劣らないリッチコンテンツの制作にいち早く取り組んだきっかけを教えていただけますか? 岩田涼太(以降、岩田):僕らはYouTubeに動画投稿を始めて7年目になります。最初の1年間はいわゆるザ・YouTuberといった企画の動画を配信していたんですが、全然伸びなくて。1年くらいは登録者が1000人くらいでしたね。今後どうしようかという会話のなかで大型企画の話になり、「心霊スポットに1週間生活したら面白いんじゃないか」と「心霊スポットで1週間生活してみた。」が企画としてあがりました。 当時の1000人規模のチャンネルの僕らからしたら、通常の動画がアップされているなかの大型企画という位置付けだったんですが、予想外の広がりを見せて。登録者が10万人くらいパッと増えて、そのタイミングでいままで通りの動画をアップしつつ大型企画もやっていくのか、大型企画に絞っていくのかという話になったんです。企画を考えるにあたって、普通の企画を考えながら大型企画を考えるのが難しいというのと、まだそういった大型企画がブルーオーシャンだったということもあり、リッチコンテンツに注力し始めました。 最初の心霊スポット生活企画から、ナレーションやアニメーションを入れたり、ロゴを作ったりして、それが評価されたのでこれで伸ばしていこうという感じでした。 ーーリッチコンテンツに取り組んだことによって、登録者が増えたということですね。 岩田:そうだと思います。当時はそういうコンテンツが少なく、3分の動画が主流の時代だったので、15分の動画やアニメーションが入っているとか、いろんな新しいものが入った動画を発掘できたユーザーが周りに言いたくなるような状況だったんだろうなと思います。 ーーなるほど。心霊スポットはいまではYouTubeにおいてメジャーな企画になってきていますが、これはどういう経緯で行った企画なのでしょうか。 岩田:企画は基本的に僕が担当していますが、心霊スポットのコンテンツが夏に流行るのは割と毎年恒例で、YouTuberたちは幽霊が来ているのか、幽霊が見えるかどうかに着目した動画が多く上がっています。そのなかで、心霊スポットに1週間行ったらその人はどうなるのかという軸で動画を作ったので、幽霊とか心霊というよりは、人の精神性の推移みたいな社会実験的な企画がウケたんだろうなと思います。 ・リッチコンテンツを作り続けるためにビジネスモデルを確立 ーーGoogleから2023年6月時点で日本国内でYouTube動画をテレビの画面でみるユーザーが3800万人以上という数値が発表されましたが、大型企画が中心のだいにぐるーぷさんのチャンネルでは動画をテレビで視聴する割合が増えたという傾向はありますか? 飯野太一(以降、飯野):そうですね。増えていますし、視聴時間も長くなっていますね。大型企画を動画にして投稿しているので尺が長く、テレビでみている人が多いのかもしれません。 ーーテレビで見る視聴者が増える前後で、企画や動画の尺など動画作りにおける変化はありましたか? 岩田:あんまりないですね。というのは、スマホやパソコンで見るというデバイスの変化や、空き時間で見るという視聴スタイルの変化は気にする余裕がないというのが正直なところです。ショート全盛期もあまり気にしていなかったですね。 ーーサブチャンネルではショートを取り入れていらっしゃいますが、ショート動画はどのように活用されているのでしょうか。 岩田:メインチャンネルのコンテンツがショート動画向きじゃないということもありますが、サブチャンネルは少し余裕ができたから活用しています。サブチャンネルでは動画を出すごとにその動画の切り抜きみたいなものをショートで投稿するというのを、最近試しているみたいな感じです。 飯野:一時期ショート動画にもチャレンジしていたんですが、チャンネルの特性上、全然伸びなくてやめてしまいました。僕らの視聴者は男性が8割ぐらいで20代が1番多く、その次に30代が続いています。10代が割と少ないので、年齢層は少し高めということも関係しているかもしれません。 ーーコンテンツの内容との相性で、だいぶYouTube ショートの使い方が変わってくるんですね。ずっと作り続けている長尺動画へのこだわりや思いなどはありますか? 岩田:僕らには、見てもらった後にその人の中に何かしら残ってほしい、一本見終わった後にその人の考え方や生活が変わったり、感情が動いたりしてほしいというクリエイターとしての希望があります。誰かの人生を変えるときには、その人の時間をある程度ブロックしないと難しいと思っていて、長尺動画は僕らのこういった考えで作っていますね。短い尺では人間模様やストーリーを描ききれないというのもあります。 ーーこういったたくさんの思いが詰まっているんですね。YouTubeで投稿した大型企画をBlu-rayで販売していらっしゃいますが、このビジネスモデルにはどういった経緯や目的があったのでしょうか? 岩田:僕らがリッチコンテンツに移行するときに、YouTuberがクリエイターとしてちゃんと売れようという目的があったんです。YouTuberがアイドルやタレントとして売れていく道は開拓されていっていますが、YouTuberがクリエイターとして売れていくという道がまだなく、僕らはそこを目指していこうと。 最初にやろうとしていたのは、だいにぐるーぷがテレビにタレントとして出演するのではなく、テレビ番組など外部コンテンツを作る映像制作会社として発注してもらう状況を作るということでした。発注をもらってコンテンツを制作する場合、コンバージョンや流入が求められるので、僕らが制作予算を預かり、YouTube用のコンテンツを作り、そこから別のメディアにユーザーを送り、そこで発注元に利益を出してもらうという仕組みで話を進めていました。 この仕組みで1度やってみたところ制約がだいぶ多く、2回目をやろうとなった時に、移動させる先も自分たちで制作した方がいいんじゃないかという話から、僕らがBlu-rayを制作、販売してそこでコンバージョンさせる。これと同じ仕組みを僕らがYouTubeでやり始めたら、メインチャンネルの制作予算が潤沢になり、いまに至ります。 ・「ショート全盛の時代は本当にきつかった」 ーーこの仕組みがあるから、リッチコンテンツが作れるというわけですね。一時期、YouTube ショートが導入されてから多くのクリエイターがショートコンテンツに力を入れた時期があったと思います。ショート動画に注目が集まっていた時期について教えていただけますか? 岩田:しっかり数字は落ちましたけど、結果的には凌げたと思っています。新規の流入も減って、おすすめに載らなくなったときもあって、ショートの時代は本当にきつかったですね。でも必ずまた長尺動画への揺り戻しがくるだろうと思っていたんで、僕らは僕らのスタイルでちゃんといいものを作って、そのときが来るのを待とうという感じでした。 ーーいわゆるコアファンの方々が、そういう時期も支えてくれていた? 岩田:たしかにコアファンのおかげっていうのはあります。2年半前くらいにメンバーシップを始めたんですけど、コアファンがいたおかげで凌げたというのは本当にあると思います。 ーーすごく面白いですね。ユーザーの視聴行動の変化において、今後どのような対応を取っていきますか? 岩田:ショートコンテンツは日々新しいフォーマットも生まれていますし、これからも流行り続けるだろうなと思います。ただその短尺動画と、長尺動画では、視聴者から求められることが異なります。短尺動画は比較的、気軽に楽しめるコンテンツが求められ、長尺ではTV番組を見るような感覚で、見応えのあるコンテンツを求められる傾向があります。そのため、僕らは求められるように、テレビの大画面でみたくなるような見応えのある動画を作り込んでいきたいと思います。 YouTube ショートが導入された当時は、自身のチャンネルとの相性の見極めや新規視聴者獲得のためなど、さまざまな理由で短尺動画にチャレンジしたクリエイターも多い。投稿の手軽さも相まって、YouTube市場に参入したクリエイターも多く、業界にとって新しい風となった。 一方で昨今の長尺動画は、だいにぐるーぷのようなナレーションや音楽、アニメーションを盛り込んだリッチコンテンツを手がけるクリエイターも多く、テレビの大画面でみたくなるようなコンテンツが充実。ショート動画から参入したクリエイターもコンテンツの用途に合わせて様々なフォーマットを活用し始めたようにも思う。フォーマットと視聴デバイスのマルチ化が、近年のYouTube動画の長尺化やテレビ視聴が進んでいる背景に繋がっているといえるだろう。
せきぐちゆみ