【ラグビー】日本代表・茂原隆由、「癖」を直してスクラムを「追求」する。
嬉しさと悔しさを味わっている。 24歳の茂原隆由は、今年初めて日本代表となって6月からの約2か月半で5つのテストマッチを経験できた。ところが9月まで参戦のパシフィックネーションズカップ(PNC)では、決勝ラウンド計2試合で登録メンバーから外れた。 群馬の高崎工高で競技を始めた身長187センチ、体重116キロの左PRは、己と向き合う。 「(PNC終盤戦の時期は)自分の足りないところを改善する機会でした。スクラムの安定性とタックルが課題で」 特に注視するのはスクラムだ。一枚岩のパックを作るべきところで、最前列で右隣に入るHOとの密着しきれないことがあった。自らの「癖」はわかっていた。 「(最前列で)HOに寄り続け、3人でコネクトし続けるのが軸。本当はHO側に寄りたいんですけど、(塊の)外側にベクトルが向いてしまう――」 代表チームが解散してしばらくすると、所属先の静岡ブルーレヴズへ再合流した。スクラム練習にも混ざった。 ブルーレヴズは、前身のヤマハ発動機ジュピロ時代から独自のスクラムシステムを唱えている。 その仕組みを編んだFWコーチの長谷川慎は、昨秋まで約8年間、日本代表のアシスタントコーチを務めた。強豪国との体格差を、理論のち密さと準備の熱量で埋めた。その後、古巣にアシスタントコーチとして戻り、中大時代から右PRだった茂原を左PRへ転向させていた。 いわば茂原はこの夏、自身がブレイクした場所へ戻ったわけだ。 すると、不思議な感触を抱いた。それまで日本代表の仕組みに沿ってスクラムを組んでいたため、「ジャパンの感覚になっちゃって(慣れ親しんでいたはずのブルーレヴズでは)うまくいかないところが出た」という。 近い間合いで組むことで向こうの圧を抑制する、右PRへ力を集めて前に押し出すべく左PRはHOに密着するといった大まかなコンセプトは、日本代表、ブルーレヴズともに同じのようだ。 しかし、細部に異なる点があったためか「『去年(昨季)、どうしていたっけな』と振り返ったくらいです」。繊細な世界にあって、その場、その場で求められる型を再現しようとする。 「どのスクラムにも、対応できるようにしたいです」 10月13日、日本代表が始動した。メンバーに選ばれた茂原は、改めてジャパンにとってのベストなスクラムを目指す。 最初の3日間はポジション別のキャンプがあった。茂原らFW陣の多くは、関東地区で汗を流した。浦安D-Rocks、横浜キヤノンイーグルスといったリーグワン1部のチームと、スクラムやラインアウトのセッションをおこなった。 ここでの収穫は、スクラムの「癖」を修正しつつあることだ。日本代表のHOでワールドカップを経験する坂手淳史の助言のおかげだという。15日午前の段階で言う。 「(ここ数日のスクラム練習では)個人的にはうまくいかなくて、外(左側)に流れてしまって、HOに寄れなかった。ただ、きょうは坂手さんのアドバイスもあって、最後あたりでまとまったスクラムを組めたのかなと。変な癖を直してもらいました。それ(好感触)をもっと追求したい」 10月26日には神奈川・日産スタジアムで、ワールドカップ2度優勝のニュージーランド代表とぶつかる。 今年の日本代表は首脳陣とスコッドをリフレッシュさせ、2027年のワールドカップオーストラリア大会で2大会ぶりの決勝トーナメント行き、さらには初の4強以上を狙うべく、チームを再構築している。 この秋は発展途上のタイミングにありながら、強豪国に挑む。 茂原は、その大一番への意気込みを聞かれる。 あくまで個人的な課題について話す。 ひとつめはスクラムだ。 「スクラムでまとまる。僕がHOに寄り続ける。(防御の)1対1で止め切る。(全般的に)ディテールがおろそかになるとミスに繋がるので、そこも100パーセントできるようにしなきゃいけないです」 スクラムでは立ち合いから勝負だ。 「低くなり、相手に(間合いを)詰めて(強く)ヒットさせない。スクラムを崩されたら相手のやりたいことを全てやらせることになるので、それを止める」 共有されたミッションを自ら体現すべく、いまはチーム内競争に挑んでいる。 (文:向 風見也)