SCS推進チーム・伊豫雅臣氏、心理的リスクがある選手を支える重要性【バスケ】
ストレスにさらされる選手を支える体制が必要
ケガなどの故障とは異なり、目に見えにくいのがメンタルの問題だ。「アスリートにかかるストレスは、とても大きい」と語るのは、Bリーグが進める「SCS推進チーム」でメンタルヘルスに取り組む伊豫雅臣氏(国際医療福祉大学・精神医療統括教授)である。国際オリンピック委員会らが2011年にまとめた「スポーツ外傷・障害および疾病調査の方法論に関する共同声明」では、実に3人に1人のアスリートがメンタルの症状を経験していると紹介している。その数字は一般人の約3倍というから驚きである。 そもそもストレスとは何なのか? “外部からの刺激(ストレッサー)によって体の内部に生じる反応”と定義されている。冒頭の共同声明ではアスリートの場合、ストレスは(1)個人に関するもの、(2)競技に関するもの、(3)組織に関するものに分類されている。「残り数秒、このチャンスでシュートを決めなければ」「体に痛みがあるけれど結果を残さなければ」「この試合に勝たなければ…」、期待に応えたい選手たちは、常にストレスにさらされているわけだ。また4年に1度のオリンピック競技の選手は、ストレスもさらに大きくなるとも報告されている。他方、長期間の中で受けるストレスもある。例えばB1ではリーグ戦60試合を8か月に渡って戦い、ポストシーズンに進めばさらに試合数が増える。これは、選手にとって肉体的にも精神的にも大きな負担となる。まして日本代表の選手となれば、ハイレベルな選手選考を経験し、重圧がかかる中で結果を残さなければならないのだから、より大きなストレスがかかることは容易に想像できる。 そんな過酷な環境下にあって、ストレスに強い選手も存在する。そうした選手が持っているのがレジリエンス(精神的回復力)と呼ばれるものだ。伊豫氏は「トップアスリートはレジリエンスが高い傾向にありますが、それでもストレスがかかる中で、精神的にダウンしてしまうケースではサポートが必要です」と言及している。注意しなければいけないことの一つが、スティグマ(差別、偏見)である。ネガティブなレッテルという表現のほうが分かりやすいかもしれない。例えば、勝負どころでシュートを外した選手について「メンタルが弱い」と烙印を押すといったことである。選手自ら“勝負どころで弱い”と思い込んでしまうケースやメンタルに不安を抱えていることを相談することすら、それがマイナスの評価につながるのではと考えてしまうこともある。しかしながら、ミスは誰にでも起こりうるもの。かのマイケル・ジョーダン(元NBA選手)も「人生の中で何度も繰り返し失敗をしてきた。それこそが私が成功した理由だ」という言葉を残している。伊豫氏は、「相談やストレスコーピング(自身のストレスを理解し、上手に対処しようとするセルフケアの一種)を講じることが大切です。まずストレスとは何かを学び、自分でマネージを試みてみる。そして組織全体としてもサポート体制を作る。クラブの中で相談しやすい環境を作り、必要ならばメンタルの専門家が入る。スティグマを持たず、メンタルヘルスを大切にする。Bリーグがそういう姿勢を先んじて見せることは意味深いと思います」と語る。レジリエンスは、問題を乗り越えることを繰り返すことによって向上するというから、メンタルヘルスへの取り組みは、選手がシーズンを通して高いパフォーマンスを発揮することにもつながる。それこそSCS推進チームの目標でもある。