人気スポーツのサッカーが汚職まみれ…中国の協会トップに無期判決
人口13億人の国の人気スポーツ…同じ穴のムジナだらけ
中国のプロサッカーリーグのシステムは日本と同じで、カテゴリーごとに分かれている。最も上のリーグは、「スーパー・リーグ」という名称。2004年に始まったから、今年でちょうど20年になる。日本のJ1と同じスーパー・リーグは現在、全国の16チームで構成されている。 サッカーは中国でもバスケットボールに次ぐ人気スポーツだ。人口13億の人気スポーツだけに、利権も多く、規模が大きい。そうなると、利権に群がる者もいる。最も大きなカネが動く最上位のスーパー・リーグにはどのクラブも参入したいはずだ。 陳被告は、大きな権限を持つ協会トップとして、公正さ阻害する行為をしていた。具体的には一部のクラブに便宜を図って昇格させたり、一部の者にトップの権限でポストを与えたりしていたようだ。 こうした悪事を働くトップを、戒める部下はいなかったのか。実は戒める者がいないどころか、「同じ穴のムジナ」がいる。陳被告が無期懲役の判決を受けた同じ日。このスーパー・リーグの運営会社の社長が、同じように収賄で、懲役8年の判決を受けている。ほか数人の協会幹部も有罪判決を受けた。 もっとひどいのが、男子の代表チームの監督だった男が、賄賂を贈ってその代表監督に就任していたことも、過去に明らかになっている。李鉄(り・てつ)という元代表監督だ。代表監督ポストを得るために賄賂、日本円で4000万円を渡していた。その相手が、これまで話してきた中国サッカー協会のトップ、陳戌源元主席だったというから、腐敗があちこちでつながっている。 この李鉄・元監督は現役時代、イングランドのプレミアリーグのチームにも所属していたほどの名選手だった。この元監督は2021年、代表メンバーの選考で、実力不足の選手4人を選び、その見返りにその選手たちの所属チームに巨額の賄賂を要求し、受け取っていたこともあった。
サッカーファンが習近平政権を支える一因に
底なし沼のような、中国サッカー界の腐敗。肝心の中国代表チームの成績はというと、2026年ワールドカップのアジア2次予選、「中国代表対シンガポール代表」の試合が3月26日夜、中国の天津で行われた。「日本対北朝鮮」の試合も、平壌で行われる予定だった日だ。 FIFA(国際サッカー連盟)のランキング88位の中国は、シンガポールに、4対1で勝った。2次予選4試合を終えて、中国はグループ4か国のうち、第2位。同じ組には韓国もいる。サッカー熱の高い中国だが、中国の男子代表チームがワールドカップ本大会に出場できたのは、2002年の日韓大会ただ1回だけだ。それ以降の5大会は出場できていない。 組織が賄賂で、ガタガタ。これでは到底、勝つことはできない。中国のファン、サポーターは歯ぎしりしているだろう。話は少し違う角度になるが、習近平政権は、徹底した腐敗撲滅運動を進めている。そのキャンペーンが、サッカー界にも及んだ。国民は、治安を最優先する今の政権のやり方に、息苦しさを感じているが、中国社会で格差が広がる中、腐敗撲滅に対しては支持している。つまり、習近平体制を支える一因にもなっている。 ファンとしてはなかなか結果の出ないサッカーのナショナルチームを強くするためにも、膿を出し切ってほしいと願うのは当然だ。一方、習近平政権は、自分たちの権威を高めるために、分野にかかわらず、汚職撲滅を徹底的に進めるだろう。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。