「会話禁止」の喫茶店、注文は筆談で 「静寂」空間がじわり人気
喫茶店だが会話は禁止で、注文は筆談――。こうしたルールで店内の「静寂」にこだわる店の人気がじわりと広がっている。雑音にあふれた日常を離れ、「ちょっと一息」を求める人たちに支持されている。 【動画】会話を禁止し静寂にこだわるカフェの店内。「コンセプトは音のデトックス」という=大阪市内 大阪・梅田のほど近くに4月、ひっそりと開店したのがカフェ「清浄(しょうじょう)」だ。記者が店内に入ると、「音は使わず」と書かれた手のひらサイズのカードを店員から提示された。 注文はメニューを指さすか、席に置かれたノートに書いて伝える。手話を使って店員とやり取りする客もいた。 ノートには、店員と客が筆談で交わした「会話」がずらり。 「どこから来られましたか?」「神戸から来ました」 客同士がイラストを描きあって、黙ったまま「絵しりとり」で遊んだページも残る。 店内の一角には、100枚近くの付箋(ふせん)が壁いっぱいに貼られたコーナーも。 客が店の感想をつづったもので、「お店に入るのに緊張したけど、勇気を出して良かった。とても心が軽くなった」「静かで良い時間だった。手話も勉強してみようかな」などと書かれていた。 開店のきっかけは、店主の松本晴夏さん(28)が2018年、ベトナムで聴覚障害者が働く「音を使わない」カフェを訪れたこと。 聞こえるのは店員の足音と、ポタポタと垂れる雨音。「静寂の心地よさと、いきいきと働く店員さんに触れ、どちらも多くの人に知ってもらえないかと考えた」という。 「清浄」の従業員15人も、多くが聴覚障害者だ。アルバイトの中村桐矢さん(20)は感音性難聴で、両耳がほとんど聞こえない。 中村さんが考える店の魅力は「ストレス社会でほっと心が休まる体験ができる」こと。接客には手話も採り入れ、「何げなく、ろう文化を知ってもらえる良い機会にもなると思う」と話す。
朝日新聞社