SBI・三井住友、新NISAのクレカ積立「改悪」 かすむ顧客本位
新NISAを巡る顧客獲得競争においてポイント付与率の高さが武器となることは明らかだ。SBI証券の積立設定口座数は239万口座(24年1月時点)で、そのうち三井住友カードによる積立設定口座は約120万口座、設定額は約470億円(ともに24年3月時点)とクレカ積立が占める割合が高い。さらに、今回のクレカ積立上限額10万円への引き上げ後、わずか7日間で積立額は100億円増加し578億円を突破した。 ●「こんなの赤字に決まっている」 その一方で、ネット証券とカード会社の双方がポイント付与による顧客囲い込みで体力をすり減らす弊害も見え始めた。 「カード会社が証券会社などの加盟店から受け取れる手数料は薄いため、(三井住友カードにとって)5.0%のポイント還元は負担として大きすぎた」(カード会社関係者)。公正取引委員会が公表している「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」によると、平均加盟店手数料率は約2.7%となっている。加盟店の業種や売上高ごとに手数料率の差はあるとはいえども、それ以上のポイント還元をすればカード会社の収益に逆ざやを生み出しかねない。 ポイントを大盤振る舞いしているカード会社だけではなく、加盟店手数料をカード会社に支払うネット証券も採算度外視の消耗戦を続けている。投資信託協会によると、公募株式投信(追加型)におけるインデックス型投信の信託報酬率の平均は0.36%で、加盟店手数料やポイント還元率の水準を大きく下回る。「こんなの赤字に決まっている。新NISAを巡る顧客獲得にかけたコストの回収には時間がかかるが、手を緩めるわけにはいかない」。ある証券会社の幹部はため息まじりにこう漏らす。 証券会社は株式や投資信託などの販売で得られる手数料収入に頼ってきたため、短期的・投機的な売買を重ねる顧客に目を向けがちだった。だが、中長期的な目線で顧客の資産形成に伴走することがより求められるようになり、預かり資産額に応じて手数料をもらう息の長い「ストック型」のビジネスモデルへの転換が課題となってきた。顧客の混乱を招くポイント競争や、利益度外視の信託報酬や手数料の引き下げ合戦は、顧客の人生に寄り添う「伴走者」として期待されている姿とは異なる。 「金融機関は手数料引き下げ競争に明け暮れず、投資家への新しい付加価値の提供にこそ知恵を絞るべきだ。サービスの魅力向上と事業収益性の確保の両立を図ることが『資産運用立国』の実現には不可欠だ」。資産運用サービスを手がける日本資産運用基盤グループ(東京・中央)の大原啓一社長は、こう指摘する。例えば、販売会社が顧客に対して商品購入後のフォローアップをする体制を強化することや、運用会社が長期資産形成に適した商品性を維持できるように「プロダクトガバナンス」を強化することも、付加価値の提供といえる。 短期的な顧客獲得に目を奪われ薄利の競争に終始していては、資産運用ビジネスの持続的発展は期待できない。新NISAの追い風をあだ花に終わらせず、個人金融資産を日本の成長力へと変える「立役者」となることが金融機関には求められている。
藤本 莉早