野菜や果物が届かない 中国地方の卸売市場に異変 運送業者、深夜や未明の運送を敬遠
2月中旬の未明。岡山市中央卸売市場(南区)の一角で、荷受会社の岡山丸果(同)の近藤浩明取締役がため息をついた。昨年末ごろから、赤や白の実を詰め合わせた奈良県産の贈答用イチゴが届かなくなった。人手不足の影響でトラックが奈良県から来なくなったためだ。「産地との関係は良好で、需要もあるのに…」 岡山丸果は九州産や地元産でしのぐ。坪井克己社長は「運送業者に無理をさせたツケもあるのではないか」と推し量る。同業の岡山大同青果(同)も九州産の果物の入荷が減る見通しだ。 市場向けは深夜や未明の運送が多く、生鮮品を扱うため時間の管理が厳しい。中国地方の卸売市場に出入りする運送会社の運転手によると、荷下ろしだけでなくフォークリフトの荷役を頼まれることもあるという。 広島県内の運送会社の関係者は「ハードな業務を敬遠して若者が集まらない」と明かす。 農産物の輸送にさらに影響を及ぼしかねないのが、4月からトラック運転手の残業規制が適用される「2024年問題」だ。物流シンクタンクのNX総合研究所(東京)の試算では、24年度の農水産業の輸送能力は19年度より32・5%減り、全業種でワーストだった。 中国地方の影響の大きさを示唆するデータもある。流通経済大流通情報学部の矢野裕児教授(物流学)が、全国の卸売市場で扱う野菜について500キロ以上離れた産地から届く割合を調べたところ、東京の約37%に対し、岡山は約58%、広島は約43%と比較的高かった。北海道や中部地方、九州南部など主要産地から遠いのが一因だ。 矢野教授は「店に並ぶ野菜などの種類や値段にも影響が出てくるだろう。消費者もある程度の不便は受け入れないといけない時代が来ている」と指摘する。 影響は広島市中央卸売市場(西区)でも起き始めている。荷受会社の広印広島青果(同)によると、昨秋から静岡県産のメロンが直接入らなくなった。昨年まで届いていた鹿児島県産のキュウリやピーマンは今季、北九州市の卸売市場まで取りに行く予定だ。 豊後厚成社長は「取扱量の多い拠点市場しか残れなくなる。新たな共同配送の在り方が必要だ」と力を込める。既に一部のエリアでは、花卉(かき)の荷受会社の花満(同)と同じ運送会社に委託している。 物流業界は運送業者より荷主の立場が強く、さまざまな商慣習を生んできた。ネット通販を利用する消費者も「荷主」と言える。「これまでは荷主主体で物を動かせば良かったかもしれない。今後は荷主と運送業者が対等なパートナーとして持続可能な物流を探っていくべきではないか」。複数の運送業者がそう訴えている。