北海道・恵庭市の牧場で障害者虐待か… 牧場側「菓子は提供」、原告側「問題に向き合って」
「1週間を通じて労働し菓子やジュースなどを提供」、牧場側が回答寄せる
原告らが指摘するのは、牧場側の問題だけではない。恵庭市側の対応についても問題視する。 担当弁護士によれば、牧場の閉鎖を受けて牧場を運営していた団体の副会長に対して「助けてほしい」旨の話を受けたと恵庭市側に相談。相談を受けた市側では「対応に気をつけるように」と内部で伝達されており、弁護士らは「元議長だった故遠藤氏に対して忖度(そんたく)したのではないか」と疑問を呈している。なお、市側は3人の劣悪な環境や障害年金の搾取について疑われることから「早めに介入していきたい」と対応の実施を示唆。ただその後、何度かのやり取りの後は何も対応がなかったとしている。 一方、恵庭市側は反論する。23年11月に札幌地裁で開かれた第1回口頭弁論では「虐待の事実を認識しておらず、隠ぺいも放置もしていない」「牧場側は里親に該当する。そのため知的障害者は家事使用人とするのが妥当」などと主張した。 3月12日の第3回口頭弁論では、裁判所が牧場主の息子と妻に送った質問状に答える形で、牧場側の回答が明らかになった。回答によると、原告らは午前5時から午後7時ごろまで、1週間を通して働いており、菓子やジュースなどを提供していたとした。故遠藤氏の妻は「賃金に関する全てを主人に任せていたためお金の流れは分からない」とし、遠藤氏が亡くなってからも今までのやり方をそのまま続けていたと説明。故遠藤氏の息子も「反省しなければいけないところは反省したい」などと回答を寄せた。 回答に対し、原告側の弁護士は「真剣に誠実に言葉を尽くして回答しているか」「(「全部亡くなった父がやったこと」と回答するなど)自分が認識している限りのことを話そうという姿勢が感じられない」「問題に向き合って」と批判した。次回の裁判は6月21日に行われる予定だ。
全国で障害者虐待が増加傾向、疲弊しない現場の実現に向けて議論を
22年度の全国の障害者虐待対応状況によると、養護者に関する通報件数は8650件(前年度比で1313件増)、そのうち虐待を受けたと判断した件数は2123件(同129件増)となっている。障害者の虐待をどのように防止するかはもちろんだが、反対に、施設などでは養護者から職員に対する暴力等もあるため働き手のケアも必要になってくるはず。どの業界でも人手不足が叫ばれている。 遠藤牧場の事例は珍しいとしても、現場を取り巻く問題は山積している。今後どうすれば疲弊しない現場を実現できるのか。国や関係機関は議論を進めてほしい。
小林 英介