宇宙を記述する数式「アインシュタイン方程式」はこうして生まれた!「時間の曲がり」とは何を意味するのか
時空の曲がり具合を記述するためには
さて、ここで重要なことは、曲がり具合は1ヵ所では測れないということです。 たとえば、地表の1点は平らにしか見えません。この事実は、一般相対性理論における「等価原理」と密接に関係します。ここでの等価原理とは、時空がたとえ曲がっていても、その時空における任意の1点では、曲がりのない場合の物理学、つまり、特殊相対性理論(重力を除いた相対性理論です)が成り立つということです。そのため、曲がり具合を論じるには、その点と周辺の点とを比較する作業が必要となります。 この比較する作業を数学的に定式化して得られる幾何学が「リーマン幾何学」です。
「時間」の曲がりとはなにか
時空は、「時間」と「空間」から成り立ちます。空間の曲がりについてはイメージがしやすいのですが、時間の曲りとは何か、ここで考察してみましょう。 一般相対性理論の説明において、「空間の曲がり」は概念図などでよく見かけます。 実際、地球儀と壁に貼られた世界地図を比較しながら眺めれば、曲がっている空間のイメージは容易に(実際の計算の複雑さは脇に置いておいて)持つことができます。しかし、一般相対性理論は時空の曲がりを用いるので、この「時間の曲がり」の方をイメージすることは難しいようです。 そこで、概念図として、次の図をご覧ください。 ブラックホールの重力によって時空が曲がっている状況で、そのブラックホールからの重力以外の力を受けずに宇宙遊泳している2名の宇宙飛行士AとBを考えてみましょう。 宇宙飛行士AとBは、ブラックホールからの距離が異なる場所、ここでは宇宙飛行士Aの方が、Bよりもブラックホールに近い場所で宇宙遊泳をしているとします。
「重力による時間の遅れ」
重力の強さはブラックホールからの距離によって異なりますから、その宇宙飛行士2名が感じる重力の強さは互いに異なります。一般相対性理論によれば、重力の強さに応じて、時間の進み方が異なるのです。 ブラックホールがない状況で、宇宙飛行士Aが午後1時に発した信号(光としましょう)は、もう一名の宇宙飛行士Bに午後2時に届いたとします。しかし、いまの状況では、宇宙飛行士Aと宇宙飛行士Bの時間の進み方が違うため、宇宙飛行士Aが午後1時に発した光の信号は、宇宙飛行士Bには午後2時には届かないのです。 重力によって時間の進みが遅れる現象のことを「重力による時間の遅れ」とよびます。 先ほどの宇宙飛行士の例え話では、ブラックホールにより近い宇宙飛行士Aの時間の進み方はBに比べて遅くなります。よって、宇宙飛行士Aにとって1時間経った時、宇宙飛行士Bの時計では1時間より長くなっています。 その結果、宇宙飛行士Aが午後1時に発した光の信号が宇宙飛行士Bに届いた時刻は、Bの時計では午後2時を過ぎているのです。 つまり、宇宙飛行士Bにとって、ブラックホールに近い側にいる宇宙飛行士Aの時計は見かけ上、遅れているのです。もちろん、このことは、宇宙飛行士Aの時計の不具合で遅れているせいではありません。 この状況を概念的に表したものが、下の図です。 ユークリッド幾何学では、机の上に置かれた方眼紙の個々のマス目は正方形です。しかし、重力のために時空が曲がっている場合、空間の目盛りと時間の目盛りがなす四角形は正方形ではありません。 この図のように歪んだ四角形から構成されます。これが時空の曲がりのイメージなのです。 ---------- ----------
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)