岐阜の実家の5畳半から世界へ 謙虚に等身大の枝を伸ばしていく「凡才」imaseが放つファーストアルバム
音楽経験ゼロからTikTokへの楽曲投稿を始めてわずか7カ月でメジャーデビューし、新世代のグローバルアーティストとして国内外で注目を集めるimase(23)がファーストアルバム「BONSAI」をリリースした。2023年日本レコード大賞優秀作品賞を受賞し、ミュージックビデオの総再生回数が80億回を超えた代表曲「NIGHT DANCER」を始め、CMソングや映画の主題歌など全19曲を収録している。コロナ禍に実家の五畳半の部屋での音楽制作から数年で世界的アーティストになったimaseに、曲作りへの思いを聞いた。 【動画】「友達とご飯に行ったり買い物したり」 imaseが語る曲作りと息抜き法 ◎「等身大の自分」が詰まったアルバム -ファーストアルバムは世界的なヒット曲「NIGHT DANCER」をはじめ、JT「ひといき習慣シリーズ」のCMソング曲「でもね、たまには」や鳥山明さん原作の映画「SAND LAND」主題歌の「ユートピア」なども収録した充実の1枚ですね。 ★imase これまでサブスク上でリリースしてきた楽曲たちがパッケージとして出るのは、すごく面白いし、すてきなこと。初めてリリースした楽曲から最新の曲まで、思い出が詰まったアルバムです。 -「BONSAI」というタイトルの由来は? ★imase 音楽を始めたのが3年前で、ギターもピアノも上手に弾けなかった。そんな「凡才」の自分が、どうやったらたくさんの方に聞いていただけるのかなってことを考えながら制作した楽曲たちが詰まったアルバムなので、このタイトルをつけました。それと(海外でも知られている)「盆栽」の意味もかけて、海外の方にも聞いていただきたいと思いました。 -表題曲の「BONSAI」には等身大のimaseさんが描かれていますね。 ★imase これまではあまり自分の経験に基づいた歌詞にはしてなかったんですけど、アルバムを制作する上で、1曲目に自己紹介をできるような曲があった方が親切なのかなって思いまして。自分がどんな所で育ち、どんな気持ちで楽曲を制作したのかを歌詞にしました。曲中の「枝を伸ばした凡才」という歌詞には、もっともっと自分を伸ばしていけたらなという思いを込めました。これからも謙虚に、等身大の自分の枝を伸ばしていけたらと思っています。曲調も初期の頃のimaseっぽさを出して、いちばん自分らしい曲になっています。 ◎5畳半の部屋から世界へ -「BONSAI」の歌詞にある「5畳半の部屋に/うっかりと音符が転がる/手に取って…」という描写も本当の話ですか。 ★imase そうですね。アルバムの大半の曲が上京前、岐阜の実家の、5畳半の部屋で制作した曲です。小学から高校までサッカーをしていて、中学までプロ選手を目指していました。会社員になって、コロナ禍だった20歳の時ギターを弾き始めました。その3~4カ月後にはDTM(デスクトップミュージック)の機材をそろえて最初は遊び感覚で短い音楽の制作を始めました。SNSで短い尺の投稿を見て、自分も短い曲なら制作できるかもしれないと思いまして。 -初期の代表作「Have a nice day」「逃避行」などは、公開すぐからSNSで話題に。どうやって作曲をしていましたか? ★imase 夜にドライブしながら鼻歌で良いメロディーを思いついたら車を止めて歌って、ボイスレコーダーに録音して、みたいな感じでした。「NIGHT DANCER」もそうです。都会的な曲ですが岐阜の中でも結構田舎の方にいた頃に作りました。 -裏声でつぶやくような歌い方はどうやって生まれましたか? ★imase 元々は歌うのがすごく苦手というか、自分の歌声が好きじゃなかったので、最初は裏声と地声を混ぜた楽曲を制作していたんです。でも「TikTok弾き語りシンガー ドラマ主題歌オーディション」への参加をきっかけに、自分が制作したい楽曲のジャンルや雰囲気には裏声の方が合うかなって思ったんです。 ◎バズりより「好き」を重視 -曲作りではバズりを意識しますか? ★imase あまり意識していませんが、いろんな人に聞いていただけるのはすごくありがたいなと思います。CMタイアップの曲なら楽曲のクオリティーは保ちつつ、タイアップ側の意図もくみ取るバランス感を意識しますね。今の流行をとらえながらも、自分の好きなタイプの曲を作ります。ポップスのアーティストとして、いろんなジャンルのにはチャレンジしたいと思っています。 -歌詞は日本語の独特な言い回しが魅力的。例えば、「NIGHT DANCER」の冒頭の「どうでもいいような夜だけど/響どよめき煌きらめきと君も…」など、言葉の組み合わせが面白いですね。 ★imase ちょっとした違和感を与えたり、言葉遊びとして(二つの意味を掛け合わせた)ダブルミーニングをしてみたりしています。心情を天気に例えるような、隠喩をするのもわりと好きです。 -何からインスピレーションを受けますか? ★imase 詩集を読んだり、いろんな楽曲を聞いたりします。詩集は楽曲制作の素材として読むようになりました。曲を先に作ってから歌詞を作ります。歌詞はほぼ日本語です。一番、自分の強みを生かせる言葉なので。 -影響を受けたミュージシャンは?米国のジェレミー・ザッカーが好きとか。 ★imase そうですね。R&Bやポップスがすごく好き。最初の頃はエモーショナルな曲がすごい好きでしたね。星野源さんの曲もよく聞いて、特に「不思議」が好きです。直接お会いしたときに「すごく影響を受けています」と伝えて、制作スタイルのことなどいろんな話をしました。 -アルバムには資生堂の日焼け止めブランド「アネッサ」とのタイアップ曲「Shine Out」、マクドナルドとのタイアップ曲「Happy Order?」も収録。どちらも広告にも登場していますね。 ★imase (楽曲提供の)本人が出演する機会はすごくありがたいなと思います。中性的とか、かわいいって言われるのは、何だろう、普通にありがたいなと思います。ポジティブなとらえ方をしていただけるのはすごくうれしい。アイコンとしてというか、楽曲のみならずimaseというアーティストとしても見てもらえてるのはすごくありがたいです。 -ファッションも注目されています。 ★imase ライブの時はほどよく抜け感がありつつ、ステージ映えする衣装にはしています。洋服とか、買い物するのは好きです。 ◎K-POPからも刺激 -去年は韓国やタイでプロモーションも行いました。 ★imase 韓国は初めて海外で歌う体験で、自分の日本語の曲を一緒に歌ってもらい、めちゃめちゃ感動しました。(鳥料理の)タッカンマリを初めて食べて、すごくおいしかったです。 -韓国の人気芸人、田中さんのユーチューブチャンネルにも出演しましたね。 ★imase 日本のカルチャーがすごくお好きな方で、一緒に話せてすごく楽しかったです。韓国と日本のコラボレーションが、音楽だけじゃなくコンテンツとしても実現してすごく良かったと思います。 -「NIGHT DANCER」には、韓国語バージョンもありますね。 ★imase (ミュージシャンの)SG(ソギョン)さんが歌詞を韓国語に翻訳してくれました。元々の日本語の語感を大切にしてくださった韓国語の歌詞で、さすがだなと思いました。 -韓国のファンコミュニティープラットホーム「Weverse」の配信でBTSのジョングクさんが「NIGHT DANCER」を歌う動画も話題になりました。 ★imase めちゃめちゃ好きな方なので、歌っていただけてすごくうれしかったです。K-POPは世界を目指した楽曲が多くて、ジャンルで言うとUKガラージや2ステップなど流行の音楽に対するアプローチの仕方もすごく影響を受けています。NewJeansさん、ILLITさんなどからも、刺激を受けています。 -海外にも同行するバックダンサーHoodie Famさんとはどうやって出会ったのですか。 ★imase 最初は「NIGHT DANCER」をダンスチャレンジで踊ってくださって、そのダンスを国内外の方々がカバーしてくれました。韓国ではStray Kidsさんをはじめアーティストの方たちが踊ってくれました。自分は、元々ダンス全然踊れなくて。 ◎今夏、初のアジアツアー -今年6~7月はアジアツアーです。意気込みは。 ★imase 海外での初ツアーでどんな雰囲気なのかまだ分からないところもありますが、現地の言葉でもしゃべってみたいなと思っています。やっぱり食べ物は各地のカルチャーに一番触れられるので楽しみたいですね。 -7月に福岡市のシーサイドももち海浜公園で開催される音楽イベント「NUMBER SHOT2024」にも出演しますね。 ★imase 夏にぴったりの選曲で行きたいと思います。福岡は今年3月のライブ以来。まだ観光とか全くできていないんですが、ご飯がすごくおいしいイメージがあるので、食べ物はすごく楽しみにしてますね。甘い物も好きです。 (文・平原奈央子、撮影・三笘真理子) ◆いませ◆ 2000年生まれ。岐阜県出身。動画サイトへの楽曲投稿で注目を集め、21年に「Have a nice day」でデビュー。昨年「NIGHT DANCER」で日本レコード大賞優秀作品賞、韓国最大級のK-POPアワード「MMA」で「J-POPFavoriteArtist」賞を受賞。