「野球がなかったら自分には価値がない」ティモンディ前田裕太を変えた本との出合い
◇この質問がすごい難しいんですよ(笑) 大学院に通っているとき、現在の相方である高岸に誘われ、芸人になった前田。野球をやめて、人生が終わったと思っていたところを本に支えられ、今がある。だからこそ、今でも変わらず本は読み続けていて、エッセイ・コラム・小説・ビジネスなど、なんでも読んでいるとのこと。 芸人のエッセイも読むそうで、特に好きな作品を教えてくれた。 「ハライチの岩井(勇気)さんのエッセイは読みやすいですし、みんなも好きだと思います。この前、ようやくサインをもらったんですよ。別に初めて会ったわけでもないのに、なんか、ずっと言えなかったんですけど、ようやく伝えられて、ちゃんと『前田さんへ』って書いてもらいました(笑)」 芸人の作品以外にもおすすめの作品を聞くと、「この質問がすごい難しいんですよね……」と言いながら、真剣に考えてくれた。 「『おもしろい』といっても、いろんな分野があるじゃないですか。でも、やっぱり僕の仕事柄でいったら、おもしろいはエンターテインメント性の高いものになりますよね。 そうなると……『成瀬は信じた道をいく』『成瀬は天下を取りにいく』とかはキャラクターも立っているから映像化しやすいだろうし、絶対、この数年で誰かやるだろうなって思いますよ。 あとは『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』もおもしろかったですね。ロジカルなものをポップにわかりやすく解説してくれているんですけど、いろんな角度から“人類は滅亡すべきだ”と論じていて。人によると思うんですけど、僕はおもしろかったです。 読み手を選べるのも本のいいところですから。よく聞かれるんですけど、この質問、答えるの本当に難しいんですよ(笑)」 しかし、読書という趣味が仕事につながることはうれしいらしい。 「昔はテレビで“本が好きです”と言ってる人を見て、“よくその熱量でしゃべれるな”とか“この本を出すならあれもあるじゃん! だったら僕がしゃべりたいのに!”と思っていたんです。だから、自分で本関係のお仕事ができるのは本当にうれしいですし、もっとやりたいです」 近年は短編小説なども発表しており、執筆業にも力を入れていきたいそう。 「いつかは、劇団ひとりさんにみたいに小説を書いて、本が売れて、映画化されるっていうのができたらなって思います。でも、僕も同じように……というよりは、僕なりの何かができたらいいなって感じですね。 たとえば、もし僕が書くなら、自分が野球を引退して生きる理由を見失ったとき、本に支えてもらったように、そういう人たちに寄り添えるようなものが書けたらいいなと思います。高岸も、これまで支えてもらった人たちに恩返しをしていきたいって、今の活動をしていますけど、僕も本に恩返しができたら」 学生時代から執筆はしていることを聞くと笑いながら答えてくれた。 「昔、書いていたのは、いま見返すとゾッとするような内容なんですよ。“ほぼほぼ、あの作家さんじゃん!”っていうような、影響を受けすぎてるものでした」 小説のほかにも、高校時代から日記をつけているという。 「もちろん、みんなで肩を組んで、つらい練習もがんばろうぜ、みたいなのもあるんですけど、それだけじゃないというか。 たとえば、1年生から2年生に上がるときとか、3年生がいなくなって新チームになったとき、自分が背番号もらえるもんだと思ってたら、もらえなかったとかっていうのがあるんですよ。仲間に励ましてもらうことじゃないし、僕は親元を離れて寮生活してたんで、親にも泣き事も言えないし、そうなったら自分の心の居場所がないというか。 それで自分の感情をノートに書いてました。こんな人間はダメだとか自己否定してたり、自分に対して怒っていたり、いろんな感情が垣間見えるようになりました。だから、ずっと続けてます」 ◇ティモンディとして大事にしてること すべてに対して全力で取り組んできたように思える人生だが、それについて本人にぶつけてみた。 「前田さんはなんでもできますねって、言ってくれる人もいるんですけど、その“できる”って、努力を積み重ねたら誰でも到達できるような気もするんです。 どんなことでもアマチュアとプロって、すごく大きな壁があるじゃないですか。お金を生み出すっていう部分にも、その差がある。僕ができるといっても、そこまではできないなってこともたくさんあります。 でも、楽しむ努力はしているかもしれないです。楽しくなかったら、途中で飽きてやめてしまうかもしれないので。もともと油絵を見るのが好きだったんですけど、自分でも描いてみようと思い、道具を買いそろえて描くようになったんです。だけど、気分が乗らないときは描かなくていいかなって。 だから、技術の向上はあまりしないんですけど、別にそれでもいいんじゃないかなって思うんです。うまくなるためにとかじゃなくて、自分が楽しいと思うことを、楽しいと思ったままやりたいなって。その気持ちは大切にしています」 最後にティモンディとして描く未来像も聞いた。 「芸人として組んだときから、こういうふうにそれぞれが活動できたらいいなとは思っていたんです。高岸も言ってくれてるんですけど、何かを無理したり我慢せず、お互い好きなことをやろうって。 だから、高岸が野球選手の顔してロケに来たりするのも、“まあ楽しいならいいか”と思いますしね(笑)。相方というより、ベースは友達なんで、 だからこそ楽しそうにしていてほしいし、そこは変わりたくないないので。 もちろん、コンビでオファーが来たお仕事も全力でやります。この道を選んだ以上は、僕らのコンビ名がついた番組を、いつかはゴールデン帯でできたらなって思いますし。結局、一人仕事が増えてほしいというより、お互い、やっていて楽しいことが増えていったらうれしいなって。 まあ、本の仕事に関しては、高岸との共通項ではなさそうですけど(笑)。何を貸しても、何を買ってあげても、“どうだった?”って聞いて、彼は“よかった!”しか言わないので。本当に読んだかもわからないですからね(笑)」 (取材:梅山 織愛)
NewsCrunch編集部