鍵を握る『デジタルフォレンジック』とは…急増する「闇バイト事件」でも活用される最新捜査手法の中身
急増する闇バイトの実態
東京都や神奈川県、埼玉県など首都圏を中心に今年8月以降、強盗事件が続発している。いずれも数人の若い男たちが窓ガラスを破って住宅に押し入り、住人に暴力を振るい金品を強奪するなど手口は荒っぽい。さらに、実行犯の若者たちはSNSの「闇バイト」に応募していたことも共通している。10月16日には横浜市青葉区の住宅で犠牲者が出る事態となった。警察当局は、匿名性の高いSNSを通じて流動的に犯行を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」(通称・トクリュウ)によるものとみて捜査している。 【画像】鈍器などで繰り返し殴り失血死…闇バイトで強盗殺人 実行犯の戦慄「素顔写真」 事件の大きな特徴は、SNSで「ホワイト案件」「高額報酬」などと、安全な仕事で高額な給料を保証するかのような書き込みでアルバイトを募集。応募してきた若者たちに匿名性の高い通信アプリ『シグナル』をスマートフォンにインストールさせて、運転免許証や身分証などの写真のほか実家の住所、家族構成などの情報を送信させる。その後、実行役の若者たちの個人情報を握った「指示役」から強盗の実行を強要されるのが同一のパターンだ。 強盗を行うことをためらった場合、指示役から「家族がどうなってもいいのか」「逃げたら殺すぞ」などと脅迫され従わざるを得なくなり、指示された住宅に押し入っていた。指示役の犯罪グループは安全地帯にいて正体を現すことはないのも特徴だ。 関連が疑われる最初の事件は、埼玉県さいたま市で8月下旬に発生。10月中旬に発生した千葉県市川市の強盗傷害事件まで14事件について警視庁や神奈川、千葉、埼玉各県警が10月18日に合同捜査本部を設置。警視庁の親家(しんか)和仁刑事部長は、 「日本警察の総力を挙げて、事件の背後にいる悪いやつらを早期に切り取り、犯罪グループの実態や事案の全容を解明する必要がある」 と強調した。 実行役は報酬を得られないばかりか、これまでに30人以上が逮捕されている。捨て駒のように使い捨てられるのも共通している。関連が疑われる事件はほかにもあり、合計すると20件以上とみられる。 ◆進化する『デジタルフォレンジック』 警察当局の捜査幹部は、「犯行形態が『ルフィ事件』と同じだ。これは第二のルフィ事件だ」と指摘する。その上で今後の捜査について、警察当局の幹部は、「『デジタルフォレンジック』がカギを握る」と強調する。 『デジタルフォレンジック』とは「電子鑑識」のことで、消去されたり削除された事件の指示状況などのデジタルデータを復元して、捜査の客観証拠とする技術を指す。現実空間の事件現場で、毛髪などのDNA関係資料や指紋、足跡を採取して証拠とするように、デジタル空間に残った証拠を採取・分析する方法だ。 その方法はデバイスごと、条件ごとに細分化されるため一概にはいえないが、一例だと以下のような手順となる。 まず押収されたスマホに対して、特殊なスクリーニングアプリを使い、復元できるデータがあるか、どの程度の復元が可能かを調べる。そこから特殊なAIを使ってパスワードの候補を抽出。パスワードでアプリ内のメモリーの自動削除機能のロックを解除する。ただ、パスワードはあくまで候補であって特定はできないため、失敗の可能性のほうが高い。上手く解除できれば、スマホに記録された情報を集めることができる。 こういった捜査の上で手がかりを掴むというが、それでも捜査関係者は「100%完全に復元できた例はない。何台ものスマホから上がってきた断片的な証拠を掛け合わせて、具体的な指示内容や発信者を割り出していく」と語る。さらに捜査幹部は次のように口調を強める。 「ルフィ事件の際には、フィリピンとの通話履歴などの情報を繋ぎ合わせて、主犯格である渡辺優樹被告らが捜査線上に浮かび上がってきた。そこから渡辺被告らのスマホのロックを特殊技術で解除し、情報を解析、実行犯への指示内容を浮かび上がらせて事件の全容解明につながった。今回の事件の捜査でも、逮捕された実行役のスマホの解析から指示役らにたどり着くような、突き上げ捜査ができるかにかかっている」 一連の強盗事件について、首都圏に拠点を構える指定暴力団の幹部は、「自分たちの立場でこのような発言をするのはおかしなことかもしれない」と前置きしつつ次のように述べた。 「連続強盗事件のうち、横浜の事件は強盗殺人になってしまった。強盗殺人罪の量刑は死刑か無期懲役しかない。やらされた若者たちは罪がいかに重いか知らないのだろう。我々はよく分かっているから、このような危ない橋は渡らない。強盗の上に殺人となると間違いなく一生を棒に振ることになる。誰かが教えてやらなければ、また同じような事件が起きるだろう」 「高額報酬」との甘言に釣られ、安易な気持ちで闇バイトに応募することによる代償はあまりに大きい。 取材・文:尾島正洋
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