「熟成」を重ねた海の幸、松山市・すし店「鮨かわなか」 川中航勇店主
すしネタの鮮度で競いがちな愛媛の地で、他店と一線を画し「熟成」の研究を重ねる職人がいる。「鮨かわなか」店主の川中航勇さん(41)。「寝かせたり、熟成させたりの『さらに一仕事』が好き。口当たりまろやかなすしのおいしさを知ってほしい」と魅力を語る。 松山を代表する繁華街・八坂通りと一番町通りの交差点。その角にあった老舗「いさみ寿司」を取り壊して2019年にオープンした。川中さんが父親の跡を継ぎ独立した格好だが、「いさみ寿司は、いうなれば昔ながらのすし屋さん。居酒屋メニューもやりつつ宴会や出前をたくさんこなし、リーズナブルな価格で提供していた。それはそれで面白かったけど、使える食材に限界を感じていた」という。 21歳で店を手伝い始めて15年。江戸前ずしの研究に東京の超有名店を何軒も食べ歩き、手間を惜しまない姿勢に感銘を受けた。「自分も一仕事で勝負したい」。独立を機に、素材や味にこだわる高級路線に大きくかじを切った。 ◆ 熟成の研究で、最初に取り組んだのは「限界値」を知ること。基本的にはマグロなど大きい魚は腐敗が始まるまでの日数が長い傾向にあり、1カ月以上の長期熟成を試すなどした結果、基本的に熟成期間が長ければ長いほど、うまみは増した。 しかし、同じ魚種の同じサイズでも個体の状態や温度、湿度、真空かどうかで限界値は大きく変化する。しゃくし定規には計れないのが難しさだが、ネタに触れた感覚や長年の経験で、これは2日間、こっちは限界まで、と大体分かるようになった。「鮮度の良いものは身が締まっていてコリコリした食感。そこから一晩、適温で置くと身の『いかり』が取れて、すしに適した魚になる。これが『寝かし』。さらに期間を置いてうまみを引き出す熟成とは違う」と強調する。
愛媛新聞社