三上博史の演者としての知性 「HIROSHI MIKAMI HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】」
TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は三上博史の舞台「HIROSHI MIKAMI HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】」について。 * * * 三上博史は人里離れた山からおりてくるたび、僕の心をかき乱す。 今年の頭は寺山修司没後40年を記念した「三上博史 歌劇 ―私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない―」(新宿・紀伊國屋ホール)での規格外の演技に圧倒された。 先日、高橋和也と原田喧太と一緒にいる席で三上博史の話題になり、思い切って電話をしたら、和也と喧太は彼と言葉を交わせたことに感動し、「三上博史」という表現者の存在の大きさを実感した。 そしてこの師走、20年ぶりの「HIROSHI MIKAMI HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】」を観た。
戦後、東西の「壁」に分断されてしまったドイツ。その東側で育ったヘドウィグがアメリカ兵に恋し、渡米するが、性転換手術の失敗で図らずも残ってしまった“怒りの1インチ=アングリー・インチ”がその後の人生の「壁」になる。 三上はアメリカのひとり旅でたまたまこの作品を観ている。小さな劇場で、料金15ドルだった。 帰国すると日本公演のヘドウィグ役が回ってきた。原作者ジョン・C・ミッチェルとの交流もはじまり、ヘドウィグのその後はどうなるのだろうと尋ねると、「どこかローカルの大学で愛の哲学でも教えているんじゃない?」とジョンが答え、三上は深く頷いた。ヘドウィグが歌うのは薄汚れた場末のライブハウスだが、彼女には類いまれな品があった。 愛を求め、裏切られ、それでも恋を続ける孤独な主人公を演じるために、三上は今回も「生々しい自分のまま」で舞台に立ったという。 公演パンフレットには彼の表現論が掲載されていた。 「僕にとって演技は“月の活動”。徹底して自分を消して臨む代わりに、もらった役や設定を変幻自在に反射して別の像を形作る。逆に音楽は自分から光を発して周囲を照らす“太陽の活動”」。そして、この作品と役柄には「月と太陽があり、交錯させられたのかもしれない」と語っている。 パルコ劇場で三上は際の際まで己をさらけだしてマイクに向かう。そして観客は総立ちになってそれに応えていた。舞台の終盤、そこかしこに涙が光る客席の間を三上は歩いて歌った。大きく手を振りながら。 差し出された彼の手に僕も触れることができた。繊細なその触感に、三上博史のナイーブさと演者としての知性を知った。 (文・延江 浩) HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】 東京 PARCO劇場 2024年11月26日(火) ~ 2024年12月8日(日) 京都劇場 2024年12月14日(土) 仙台PIT 2024年12月18日(水) 福岡 キャナルシティ劇場 2024年12月21日(土) ※AERAオンライン限定記事
延江浩