「努力とは馬鹿に与えた夢」、「学問とは貧乏人の暇つぶし」…“最後の名人”立川談志が遺した知るほどに奥深い名言
「情報を疑え、常識を疑え」
「最後の名人」と謳われた落語家・立川談志(享年75)が亡くなって13年(2011年11月21日没)。昨年は13回忌を迎えると共に、自ら創設した落語立川流の40周年とも重なった。人気テレビ番組「笑点」を企画し、司会者としても出演。参議院議員に当選するなど、談志の活躍は落語界だけにとどまらなかった。また、多くの著作や音源などで金言、名言、芸論などを遺している。そのいくつかを紹介したい(全2回の第1回)。 【写真4枚】混迷する今の世の中を、談志だったらどう斬るか? 煙草を手に熱く語る姿
落語家は入門すると前座、二つ目、真打と昇進していく。前座は楽屋でお茶を出したり着物を畳んだりと、師匠の身の回りの世話で忙殺される。二つ目に昇進すると羽織の着用が許され、落語家としての活動も許される。立川流では「前座から二つ目になるには、古典落語を50席おぼえる」など、明確な昇進基準があるが、落語史でも“最長”とされる16年半もの前座生活にくわえ、破門3回という経歴を持つ立川キウイ(57)の著書『談志のはなし』(新潮新書)によると、 〈「情報を疑え、常識を疑え、人間なんて支離滅裂、いいかげんなものだ」 戦争体験のある師匠は、戦後の価値観がガラリと変わった体験をしているので、もともと斜めからモノを見る人だったんでしょうけど、そうした視点を強く持っていました〉 ある真夏の昼下がり。ビールメーカーのイベントに談志が招かれた。ビールを飲みながらトークをして、最後に「やっぱりビールは(イベント会社の)ビールに限る!」という発言で〆るというもの。だが、談志は酒が強い方ではなく、トークをしながらチビチビやっているうちにすっかり気持ちよくなってしまった。頃合いを見た司会者が「談志師匠、ビールはどこが美味しいですか?」と“お約束”のセリフを振った。談志はにっこりしながら、 「酔えばみんな同じ」 その後、司会者は「談志師匠、やっぱりビールはこれですよね」などと懸命にフォローするが、 「吾輩はね、J&Bのハイボールが一番好きなんです。グルーチョ・マルクスがね……」 と話は脱線する一方。何とかイベントは終わったが、その後、司会者はこう言った。 「さすが談志師匠です。こんな司会は初めてでした」 〈やはり人間はどっかで型破りを期待してるもんなんだなって思ったっけ。けど、もしかしたら師匠はそれを確信犯でしたのかもしれないと思ってます。だって以前、こんなことを話してくれましたから。 「お前も自分をどう見せるのか考えろ、計算しろ。人前に出るというのはそういうことだ。自分がそのまま受け入れてもらえるなんてまずない。そりゃ俺みたいになれるならいいけどな」 なんたって名の知れたビールのイベントですから話題を狙ったのかもしれません。リスクも承知で立川談志を演出したんじゃないかなと〉(前掲書より)