「自分とは世界が違う」パチンコを軽蔑していた男性が“ギャンブル依存症”に転落するまで
ギラギラした都会での生活が
大阪での大学生活がスタートした。初めての一人暮らし。ほどほどに勉強をしながら単位を稼ぎ、彼女をつくったり、海外旅行に行ったりして、4年後には就職……。そんな当たり前の未来図しか思い描いていなかった。 大都会はまぶしかった。セイタが育った地元にもそれなりの活気はあったが、大阪のスケールは桁違いだった。表通りには、キラキラと華やかに着飾った男女が行きかい、裏通りに回ると、一転、ギラギラと黒光りする欲望があちこちにしみついていた。未知の刺激に満たされた世界で、親の目が届かない解放感。少し前までは、親元で多少の息苦しさを当たり前に受け入れていた18歳の周囲に、いきなり無限の自由が広がった。 経済的な心配はない。マンションの家賃も、当面の生活費も、親が自分の銀行口座に積んでおいてくれた。それでも……。もっとカッコいい洋服を着たい。若い男性に流行していた「クロムハーツ」のアクセサリーも身に着けてみたい。仕送りだけでは、さすがにそこまでの余裕はなかった。もうちょっとだけお金があれば――。そう考えていたら、すぐに居酒屋のアルバイトが見つかった。 10代の若者が、慣れない大都会に出てくれば、最初に孤独感を感じ、次にそれを払拭できるかの不安を覚える。セイタも例外ではなかったが、バイト先の先輩たちは、にぎやかに自分を受け入れてくれた。長い間、サッカーチームに所属してきたにもかかわらず、セイタは自分から人の輪に加わっていくタイプではない。誰かと話をすることは嫌いではないが、かなりの人見知りだった。大学の授業が始まっても、不思議なことに、クラスで一緒になる同級生よりも、バイト仲間たちと一緒にいるときのほうが自然な自分でいられた。 居場所ができた。心強かった。孤独への不安は、日を追うごとに、居酒屋の喧騒にかき消されていった。 都会生活は順調に滑り出した。だが、セイタの「未来」は、思わぬ方向に軌道を変えていた。もちろん、そんなことに気づくはずはなかった。