『僕ヤバ』第2期OPの圧倒的完成度 青春の“生々しさ”を具現化する名スタッフたち
TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』第2期が1月から放送され、人気を博している。特に主人公たち2人の微妙な距離感を持つ関係性と、丁寧に作り込まれた映像演出が巧みな作品だ。今回は大きな話題を呼んだOPを含め、今作の映像演出の見どころについて迫っていく。 【写真】第17話先行カット(複数あり) 『僕の心のヤバイやつ』は桜井のりおが原作を手がけ、2018年3月より『週刊少年チャンピオン』で連載が開始され、現在は『マンガクロス』で連載されている作品だ。TVアニメは2023年4月より第1期が、2024年1月より第2期が放送されている。監督は『からかい上手の高木さん』などの赤城博昭、シリーズ構成に『ラブライブ!』などの花田十輝、音楽は『リズと青い鳥』などの牛尾憲輔が務め、制作会社はシンエイ動画が担当している。 TVアニメ「僕の心のヤバイやつ」第2期ノンクレジットOP映像|あたらよ「「僕は...」」 1月より放送開始された第2期で話題となったのが、華麗なOPの映像表現だ。こちらは『進撃の巨人』などの監督も務めた荒木哲郎が担当している。荒木は近年OP・EDを多く手がけ、職人的で作品の魅力を底上げするような映像表現を発表している。『SPY×FAMILY』第1期第2クールOPを例に挙げると、BUMP OF CHICKENの「SOUVENIR」の軽快な音楽とともにキャラクターたちが平穏で特別な日々を謳歌している姿を描いており、こちらも話題となった。 OPは作品の顔ともいえる。視聴者がキャラクターを掴む際に最初に目にし、どのような物語か想像を膨らませる、まさに作品の玄関といえるだろう。荒木の映像表現の作風は派手で美しいことが多く、特に撮影処理によって鮮やかな映像が繰り広げられている。見た目の美しさに惹かれるが、同時に『僕の心のヤバイやつ』が持つ、青春期の一瞬のゆらめきを描き出すために重要な表現でもある。 詳しく見ていこう。OPの冒頭では登校中の山田杏奈の姿が描かれるが、表情が窺えず全体的にも色合いが暗い。次のカットでは主人公の市川京太郎が、先を歩く山田の姿を見つける。この際、市川の表情には撮影処理で玉ボケが演出されており、視聴者にカメラの存在をアピールし、彼らが実際に生きているような実在感を示している。次のカットでカメラは市川の視線を示すように山田の足を映すが、同時に身長の低さに加えて俯きがちな市川の性格も表現されている。そして山田が振り向いたとき、タイトルクレジットが流れ、楽曲が転調することで2人の関係性が始まったことが示唆される。 ここまでわずか4カット、10秒ほどの映像であるが、2人が出会ったことでそれまでの生活が一変する、ということを示すことに成功している。その後もすれ違いや自分の感情に戸惑う2人の姿、そしてやはりお互いを求め合うような疾走感のあとに、迫力のあるダンスシーンが流れるなど、本作がどのようなストーリーなのか1分30秒で簡潔に示している。あたらよの「僕は…...」の楽曲と歌詞も含めて、早くも2024年を代表するであろう名OPと言って間違いないだろう。 では第2期の内容についても触れていこう。本作を観ていて感じるのは、市川と山田を中心としたキャラクターの感情が、はっきりと視聴者に伝わってくる点だ。第1期の時点で原作者の桜井のりおは「アニメになってより生々しくなったなと思ったんです」と発言している。まさにこの“生々しさ”こそが、今作のポイントだ。中学生の男子と女子の、傍目から見たらどう見てもうまくいっているのに、自分の感情を理解することができずに戸惑いながら、相手に惹かれていく視点がとてもうまく描かれている。(※) 青春の描写に関しては赤城博昭監督と花田十輝の脚本構成の上手さが光る。赤城は『からかい上手の高木さん』の監督も務めているが、中学生の恋愛のような交流を重ねるという点で両作は似ている部分がある。同時にコメディ寄りだった『からかい上手の高木さん』と比較すると、今作の方が言うなれば生っぽい、実在感があるような印象を受ける。作品を観て得られる甘いラブコメ感は同じかもしれないが、そこに至る経緯や演出が若干異なっているのが面白い。 また、中高生の変化していく繊細な感情を書かせたら、花田十輝はその道のエキスパートだ。『ラブライブ!』『響け!ユーフォニアム』『宇宙よりも遠い場所』など、思春期だからこそ揺れていく少女たちの感情を鮮やかに表現し、多くの視聴者を虜にした。今作の場合、上記の作品のように、大きな目的意識のあるドラマが展開されるわけではない。しかし繊細に紡がれた花田の脚本によって、登場人物たちに感情移入するような脚本となっている。 そして今作は音楽が印象に残る。牛尾憲輔の音楽は他作品も含めて、キャラクターの感情を繊細に、それでいながらも端的に表現しているように感じられるのだ。もちろん、この3者のみの力ではないが、映像演出、物語の構造、そして音響・音楽が合わさった総合芸術としての完成度が高く、その結果、生々しさと視聴者の胸を焦がす甘酸っぱい関係性が生まれている。 市川と山田の関係性と同時に、キャラクター属性にも現代的な多様性のあり方を感じさせる。市川は根暗で背が小さく、山田は身長が高く大人びている、というキャラクター設定は、既存の物語で多いパターンからは乖離している。男子は身長が高くスポーツが好きなイケメン、女子は身長が少し小さめで少食で小動物のような印象を受ける子、といったような既存の一種の恋愛作品におけるキャラクター像からは、とても遠いところにいる。 山田の食事を多く摂る大食漢な部分や大柄な体格を、市川のように身長が低くて後ろ向きな性格に悩むコンプレックスに思う中高生もいるだろう。それらはいわゆるカッコいい、かわいい姿とは少し離れているように感じられるかもしれない。過去に多く見られた設定からはみ出して、誰もが魅力的に映るキャラクター像を生み出すのは、日本のアニメ・漫画文化の真骨頂と言えるのではないだろうか。 今回はOPとスタッフについて多く紹介したが、EDやキャストも含めて多くのシーンで優れている作品となっている。市川と山田の自分の感情に戸惑いながらも相手を思い合う、生々しい中学生の感情を描いたメディアミックスの工夫を、ぜひ堪能していただきたい。 参照 ・https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1686895009
井中カエル