対北制裁パネル廃止へ:ロシアの秩序破りが北東アジアにも波及
「瀬取り」やサイバー犯罪も
専門家パネルの監視の目は、北朝鮮の核・ミサイル開発を支えるさまざまな違法活動の摘発に役立ってきた。過去の年次報告では、北朝鮮の船舶が石油製品や覚醒剤、武器などの禁制品を東南アジアなどの公海上で密輸船と受け渡しする「瀬取り」の実態を何度も指摘してきた。米国がシンガポール船籍のタンカーを拿捕・没収した事件(2021年)などにつながった(※3)。 また、安保理が3月20日に公表した年次報告では、北朝鮮が外貨収入の半分をサイバー攻撃で得ており、世界の暗号資産(仮想通貨)関連企業へのサイバー攻撃の被害額が約30億ドル(約4500億円)にのぼると指摘した(※4)。これらの違法な収益は核・ミサイル開発にあてられているという。この報告では、ロ朝間の武器取引に関しても「北朝鮮がロシアに1000個以上の軍事品入りのコンテナを提供した」可能性に言及しており、こうした指摘がロシアの拒否権行使につながった可能性が高い。 専門家パネルが廃止されれば、これが最後の報告となってしまう。パネルの活動に関わってきた専門家の間では、「核・ミサイル拡散を狙う勢力による金融アクセスを防ぐために、世界の金融機関や保険会社が依存してきた貴重な報告が失われることになる」と、悲観する意見が高まっている(※5)。 ロシアはウクライナ侵攻によって欧州の平和秩序を踏みにじっているだけでなく、国際社会の平和と安全の秩序に対する敵対的姿勢を欧州から北東アジアにも拡大させたことになるのではないか。この点については、パネル延長を支持せずに、棄権票を投じた中国の姿勢も厳しく問われそうだ。
注釈
(※1) 時事通信3月29日、「国連安保理、北朝鮮パネル延長を否決 ロシア拒否権、事実上廃止へ」など。 (※2) ロイター通信2月27日、「北朝鮮、ロシアに兵器提供 コンテナ6700個=韓国国防相」。 (※3) AFP通信2021年7月31日、「北朝鮮に瀬取りで石油密輸、シンガポール船没収 米司法省」。 (※4) 読売新聞3月21日、「北朝鮮が暗号資産企業へサイバー攻撃58回、4500億円窃取か…国連核・ミサイル開発資金指摘」。 (※5) “Russian veto ends U.N. panel monitoring North Korea sanctions,” By Michelle Ye Hee Lee and Min Joo Kim, Washington Post, March 29, 2024.
【Profile】
高畑 昭男 TAKAHATA Akio 公益財団法人ニッポンドットコム理事。1949年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒。毎日新聞北米総局長、同論説副委員長、産経新聞特別記者兼論説副委員長、白鴎大学教授などを経て2022年より現職。著書に『「世界の警察官」をやめたアメリカ』(2015年、ウエッジ)など。