老親につきまとう「詐欺被害」「運転ミスによる事故」のリスク…子は親をどう守ればいい?【精神科医が解説】
「車の運転をやめてほしい」は正解か
また、テレビや新聞で高齢ドライバーの交通事故が報じられるたびに「免許の自主返納」が話題になりますが、まだ運転できる能力があるうちに親御さんから免許を無理やり取り上げるのは、一度立ち止まって考えるべきかもしれません。 自動車免許を返納して運転をやめた高齢者のなかには自転車に乗り始めるケースがあるようです。徒歩では遠いため、これまで車を使って済ませていた買い物や通院などを自転車で……という判断は十分理解できます。 しかし、ここで気をつけたいのは、久しぶりに乗る自転車の危険性です。以前より脚力が落ちた状態で自転車に乗ると、フラつきによる転倒、骨折のリスクがあります。 私の患者さんのなかにも、自動車免許を返納して自転車に乗り換えたものの、転倒事故を起こし、結局その後寝たきりになってしまった人がいました。 ゆっくり走るにはバランス感覚が必要なため、高齢者ほどスピードを出さないと安定して走行できません。スピードを出して自転車を漕いでしまい、道で子供と接触して双方大ケガをするリスクもあります。 筑波大学が発表した研究(2019年)では、65歳以上の高齢者で車の運転をやめた人は、続けた人に比べて6年後の要介護認定のリスクが約2倍になることが判明しています。 そうであるならば、まだ安全運転ができるうちに、高齢であることのみを理由に親御さんに自動車免許の返納を促すことはやめたほうがいい。ましてや、自動車から自転車に乗り換えることは避けるべきです。 警察庁の統計によると、交通事故全体に占める高齢ドライバー(65歳以上)の事故件数は、2022年は約16%でした。近年は「サポカー」と呼ばれる運転支援機能がついた自動車が普及し始めていることもあり、自動車の安全面は強化されつつあります。 統計数字を見ても高齢者の事故は若年層の事故と比べて多くはなく、「免許保有者10万人当たり75歳以上高齢運転者による死亡事故件数」(警視庁交通局発表)は2022年に5.7件です。これは2012年の11.5件から年々減っています。 数字からいうと返納のデメリットも多いことを知っておくべきだと思います。 和田 秀樹 精神科医 ※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
和田 秀樹