注目のニューカマー、omeme tenten。ネガティヴを飄々と躱していくしなやかさの正体
omeme tenten、という何とも可愛らしいバンド名の4人組がいる。灯(ヴォーカル&ギター)が紡ぐちょっとドライでユーモアのある歌詞と心地よく突き抜けていく声。そしてロックのときめきやロマンがめいっぱい詰まっているギターリフが何とも印象的なサウンドだ。1月17日に「インスタントジョーク / マイラブリー」を配信リリースしたばかりの彼女らに初接近すべく、灯にインタビューを行った。omeme tentenの軽やかで痛快な、日常における不安やネガティヴな感情も、飄々と躱していけるようなしなやかさはどこから来ているのか。それを探ってみた。
落ち込んだことをどう表現するかっていうのはこだわっています
――バンドの結成が2022年4月6日って、すごく最近な感じがしますけど。大学の軽音サークルで組んだそうですね。 「そうです。もともとこのバンドは配信リリースだけの活動をするつもりだったんですけど、やっていくうちにライヴもやりたいなっていう気持ちが出てきて。2022年4月6日はファーストEP〈祈りたちよ〉を配信リリースして、私たちはこれからバンドをやっていくんだと決めた日です」 ――灯さんがバンドを始めたきっかけは? 「私は高校生の時にRADWIMPSやandymoriに憧れてバンドがやりたかったんですけど、そういう子が周りにいなかったので、家にあった父のアコースティックギターで弾き語りをしていたんです。大学の時にコロナ禍で自宅待機となり、膨大に暇な時間ができて。私はあんまり趣味が多くないので、家でギターを弾くくらいしかやることがなくて。そんな中でオリジナル曲をちゃんと作ってみようかなと思って〈祈りたちよ〉という曲ができました。それを今のバンドメンバーのたえり(ドラム)に聴かせたら『これバンドでやろうよ』ってなったのが始まりですね」 ――「祈りたちよ」からもうomeme tentenのオリジナリティがちゃんとありますよね。 「この曲をとにかくMVに残したくて、それが思い出になればいいな、くらいの気持ちでした。当時はジャクソン5を聴いて、マイケル・ジャクソンの若い頃の声が残ってることに〈タイムカプセルみたいだな〉ってめちゃくちゃ感動したんですね。こんなふうに自分の声が残せたらすごくいいなと思ったし、せっかくサブスクで音楽がリリースできる時代なんだし自分でもやりたいな、1曲でもいいから自分を残せたらいいなと思ってたんですよね。そしたらどんどん楽しくなってきちゃって。今、聴いてもその時に残したかった情景がちゃんと浮かび上がるので、私がやりたかったことができたなと感じています」 ――コロナ禍でも、自分がちゃんと生きていたんだ、っていうことを残せたんですね。 「コロナ禍って本当に無意味な時間が1、2年も続いて。高校生も中学生も学校が始まったんですけど、大学生は対面授業がなかなか始まらなくて、なんで私たちだけずっと何も始まらないんだろう、って思っていたんです。学校にも入れないし本当にいろんな規制があって、異様な状況でしたね」 ――長い人生のたった1、2年かもしれないけど、若い世代のかけがえのない時間を奪われて、どんなことを考えましたか。 「居酒屋でバイトをしていたんですけど、当然お店も休みになったんですね。その時に店長さんに『大学生って今何してるの?』って言われて、〈私、何してるんだろう〉って思ったことがショックで悲しかったですね。人生で一番楽しい時間のはずなのに、何をしているのか、自分でも答えられない。でも何もしないことが当時は正しかったし、人に迷惑をかけて外に出歩くこともできなくて辛かったですね」 ――私は何をしてるんだ、という自分への問いかけが音楽活動に繋がったんですか。 「本当にそうだと思います。何かしたいっていう気持ちはコロナ禍がなければ生まれてなかったと思うし。普通に大学のサークルで音楽をやって、そのまま卒業してって感じだったと思います」 ――コロナ禍があったからこそ灯さんは音楽と向き合って、バンドとしてこれからやっていくという覚悟を決めて。 「はい。〈2020〉という曲も書いたんですけど、私はコロナ禍であんなに世界中の人たちが平等に苦しかった時代って初めてなんじゃないかなと思ったんです。この世の中って平和であることが妬まれたり何も不自由なく生きてきた人が嫌われちゃったりすることがあると思うんですけど。なんか2020年って、あの時代に生きていた人が全員苦しかったよねって言える。私たちも若くていいねとか、若いから苦しみを知らないでしょとか言われなかったし、そんな時代があったことを皮肉も込めて曲に残しました」 ――そして今年1月に「インスタントジョーク / マイラブリー」を配信リリースしました。 「すごく反響をいただいてうれしいです。久しぶりにMVも公開したので皆さんに届いたらいいなと思います」 ――「インスタントジョーク」って不眠症の方の歌詞かなと思ったんですけど。 「そうですね。私、眠れない日はとことん眠れなくて。そうなると自分の目の置き位置がわからなくなったり、どうやって目を閉じてたっけとか、舌はどこに置いてたっけ、腕はどこに置いて寝るんだっけって考え始めて止まらなくなって。それを歌にしたら面白いんじゃないかなと思ったんです」 ――眠れないことも、言葉選びとユーモアで何だか楽しげな表現に落とし込むのが灯さんならではですね。 「そうかもしれないです(笑)。眠れないなら、もういいや、起きちゃおう! リビングに行って卵かけご飯食べちゃおう!っていうタイプなので。そういう眠れない夜のことをポップに曲にしました。私、羊を数えれば数えるほど寝れなくて、寝返りを数えたりしたこともありましたから」 ――ちょっとネガティヴなことも自分流に対処していくことは多いですか。 「落ちる時は落ちるところまでガーッと落ちて、次の日にはケロッと忘れてるタイプなんです。そういうところも〈インスタントジョーク〉には反映されてるのかも。じわじわ悲しむより、いっそ反撃しちゃおうみたいな、そんな感じでいつも乗り越えていきたいなと思ってますし、落ち込んだことをどう表現するかっていうのはこだわっています」 ――灯さんはちゃんと〈今の自分〉に向き合いながら曲を作るんですね。 「そうかもしれないです。私自身のものの考え方や価値観がはっきりしてきたのは曲を作るようになってからなんですけど。普段の日常の中では自分が何に喜んでいるのか、怒っているのか、悲しんでいるのかを言葉にしたり、ちゃんと答えを出そうと思ったことがなくて。でも曲を作っていると、どうしても自然に答えが出てくるし、曲作りが自分の考えをまとめる作業にもなっているんです」 ――その時々の自分を好きな形の音楽にして残していくのが楽しいんですね、きっと。 「今はそうですね。まだ活動を始めて2年も経ってなくて、まだまだ私たちの知らない世界がいっぱいあると思うので、何か目標を立てて向かっていくよりも、これから自分たちからガツガツ進んでいきたいです」
上野三樹