声を重ねて(4月30日)
なじみ深い旋律だったはずなのに、演奏を耳にした瞬間、これまでとは違った印象を受けることがある。今月21日、白河文化交流館でそんな思いを抱いた人は多かったのではないか。コミネス混声合唱団のステージ、「春に」の演奏だ▼学校で、あるいは公共ホールで、全国至る所で歌われる定番曲。詩人谷川俊太郎さん作詞の「この気もちはなんだろう」で始まる。合唱団が歌い出すと、客席で息をのむ気配がした。声が染み込んできた。プロの東混ゾリステンとの共演だったが、それだけが理由ではあるまい▼発足から8年。定期開催を視野に入れた1回目の演奏会だった。最年少45歳、最高齢88歳のシニア主力の40人。演奏曲目は話し合って決めた。オープニングは坂本九さん、最終章は和洋の正統派合唱曲。この日のために遠く南会津町から練習に通った団員もいた▼芽吹く季節を主題にした谷川さんの歌詞は、生きることへの賛歌でもある。声を重ねることを楽しみ、年輪を重ねた団員たちにとってこの一曲は偶然の選択ではなかったろう。ステージは満員の聴衆の拍手に包まれて終了した。壇上の団員たちのまなざしに、喜びに満ちた光が、差したように見えた。<2024・4・30>