VTuber、クリエイター、ファンが生み出す熱量をゲームに。ホロライブのゲームブランド「holo Indie」とは何なのか?直接聞いてきた。『Idol Showdown』の反響で会社を設立、コミュニティの熱量はやがて海を超えるのか【BitSummit Drift】
VTuberファンの中で「ホロライブ」の名を知らない人はいないだろう。日本のVTuber業界をけん引し続ける超巨大事務所であり、良質な楽曲やユニークなゲーム実況配信によって、今や同事務所に所属するタレントたちの知名度は一般層にまで浸透しつつある。 そんなホロライブが本格的にゲーム事業に参入するきっかけとなったのは、昨年リリースされたファンメイドの格闘ゲーム『Idol Showdown』だ。 同事務所に所属するVTuberが格闘ゲームのキャラクターとなり戦う同作は、格闘ゲームファンのみならず多くのユーザーを獲得し、IPモノのインディゲームとしては異例の大ヒットとなった。 このヒットをうけ、ホロライブを運営するカバー株式会社はインディゲームブランド「holo Indie」を正式に発表。 VTuber、開発者、ファンを繋ぐエコシステムの一環として、ホロライブIPを用いた二次創作ゲームのパブリッシュ事業を本格的に展開していくこととなる。 今回は、そんなholo Indieプロジェクトを担うため立ち上げられたカバーの完全子会社「株式会社シー・シー・エム・シー(以降CCMC)」を取材。 同社でゲームのパブリッシュを務める加持太郎氏と畠野貴之氏のお二人に、CCMCの設立経緯やこれからの展望など、様々な質問を伺った。 インディゲームの祭典「Bitsummit Drift」にも出展したホロライブ。彼らのゲームはどのような姿になり、どのような展開を見せてくれるのだろうか? 聞き手/実存 文/植田亮平 編集/りつこ ■始めは裏方だったけど……一大事業となったCCMCの活動 ――本日はよろしくお願いいたします。まずはCCMCについて詳しくお聞きしたいと思いますが、そもそもCCMCはどういった経緯で設立された会社なのでしょうか? 加持氏: CCMCを作った理由はいくつかありますが、一つの理由にタレントの配信活動に関する悪影響です。 カバーがゲーム事業に本格的に参入するとなると、当然カバーは”ゲーム会社”としてゲームのパブリッシングを行うことになります。 しかしそうなった場合、カバーに所属しているタレントの活動に影響が出る可能性を懸念しました。 ――どういった影響が出るのでしょうか。 加持氏: カバーに所属するタレントがゲームの実況配信を行う際、当然そのゲームを販売している会社から正式に許諾を得る必要があります。 しかし、カバーが”ゲーム会社”となれば当然ゲーム会社からすると競合他社となる。そうなると、配信許諾に関してYESと言えない企業さんも当然出てくる可能性があるわけです。 そうした懸念を回避するために、新たに会社を立ち上げることとなりました。 ――なるほど。カバーが正式にゲーム会社になってしまうと、配信に不都合が出てきてしまうわけですね。 加持氏: そうした課題の中で事業のフットワークを軽くするためには、必然的に子会社化する必要があったんです。 ――となると、やはり設立の一番の理由としてはゲーム会社との競合を避けるため? 加持氏: もう一つ大きな理由として、広報上の問題もありました。 カバーの公式Xは膨大な情報量があります。例えば1時間おきに何か新しい情報が出たりと、とにかくスピードが早いんです。 事前にポストの予約をしておけば、カバーの公式Xからゲームに関する投稿もできます。しかし、それでは広報の小回りが利かなくなってしまう。 ――確かに、大きな会社ほどタイトルごとや開発チームごとの広報アカウントを運用しますね。 加持氏: それと同じで、ゲームの広報においても小回りの利くチームを作る必要があった。会社を立ち上げた経緯にはそういった理由もありますね。 ――ここまで設立の経緯を聞く限り、パブリッシングを請け負う裏方という印象です。 加持氏: そうですね、少し前まではひっそりと活動している会社でした。正式にホームページを開設したのも5月末のことです。 プロジェクトの人数も小規模で、現在は8、9名ほどいるものの、立ち上げ時はたった3人のチームでした(笑)。 ――そこからホームページを作り、CCMCとして表に露出することを決めたのはどういった理由があったのでしょうか? 加持氏: 立ち上げ時はそこまで大きなプロジェクトじゃなかったので、ソフトのローンチを試しにするだけの会社でした。 しかしその後、あまりにも人気が出て反響も良かったので、うちの代表も本気でやってくださいと(笑)。 ――代表直々にですか(笑)。 加持氏: 方針が変わったのはそこからですね。チームを再編成し、結果的にホームページも開設することになってしまって(笑)。 ――一大事業になってしまいましたね(笑)。そんなCCMCですが、現在の活動は専らパブリッシングでしょうか。 加持氏: うちは開発チームを持っていないので現状パブリッシング専門ですが、開発者の方とSteamworks【※】を介した共同作業も行っています。 なので、考え方としてはSteam上のいちプラットフォーム的な位置づけなのかなと。 ――なるほど。 加持氏: holo Indieが一つのパブリッシングブランドになり、そこにクリエイターの方が乗っかっていく形で収益化を公式に許可する。そういったプロジェクトですね。 ■クリエイターたちが集まる場所 ――そんなプロジェクトを実現させるにはクリエイターの協力が不可欠かと思います。クリエイターさんは現在どのように募集されているのでしょうか。 加持氏: 現状クリエイターさんは公募で集めています。CCMCのホームページから申請することが可能で、我々のチェックを通過したものが正式にholo Indieでパブリッシングされます。 ――CCMCさんからクリエイターを発掘しに行くことはあるのでしょうか。 加持氏: 今後はそういった活動も積極的に行っていきたいですね。既にゲームシステムが出来上がっているインディーゲームの場合は、うちのIPを使ってみませんか?とお声がけをさせていただくこともあります。 ――ということは、既にいくつか? 加持氏: 今回のBitSummitで試遊できた『ホロライブお宝マウンテン』も、そういった取り組みによって実現したタイトルです。開発のBeXideさんが手掛けるインディプロジェクトに、うちのIPを乗せるかたちで実現しました。 ――そんな経緯があったんですね。ところで、holo Indieは現在いくつのタイトルをリリースされているんでしょうか。 畠野氏: 現状は全9タイトルです。 ――結構な数が出ていますね、ちょっと見ない間にこんなに増えてたんだと驚きました。 加持氏: 実は、前回の公募の時点で既に50件を超える応募を頂いておりまして、むしろ審査に時間がかかっている状況です(笑)。 クリエイターの皆さんにはお待たせして申し訳ない状況ですが。 ――審査待ちの作品も多そうですね(笑)。 加持氏: ある程度完成しているゲームを「ホロライブでやりたい」というニーズはもともとあったので。そういったタイトルを捌いていく作業がようやく回り始めたという感じです。 ――応募してきたクリエイターの方たちは、やはり個人制作者の方が多い? 加持氏: ピンキリですね。1人で制作している方もいれば、20人以上のチームで開発を行っているチームもいます。 ――そんな規模でも! 加持氏: 海外のインディークリエイターさんになってくると、プロジェクト単位でチームを組み、スタジオと同じ規模で制作をしている方も多いです。色々なスケールの違いがあって面白いですね(笑)。 ――海外のクリエイターはインディーでもそれなりの人数をかけて制作しているイメージです。 加持氏: ですね。クオリティの面でも、やはり海外の方は平均して高いなと感じます。 ――クリエイターの方とはどういったコミュニケーションをとっていらっしゃるのでしょうか。 加持氏: 開発者を集めたDiscordサーバーを作って、開発者同士で交流ができるような空間を確保しています。現状ではNDA(秘密保持契約)を結んだ人に限られますが。 ――開発者コミュニティまで出来ているのはすごいですね。 加持氏: といっても、まだ作っている段階ですけどね。 クリエイターさんによって得意分野も異なるので、出来ない部分を補えるようなマッチングの手助けができたらいいなと。 ――インディゲームは開発者コミュニティがどうしてもばらけがちになってしまいますが、ホロが好きという部分で連帯できるのはかなり強みになる気がします。 加持氏: まだ手探りなので誰でも参加できるわけではないですが、これに手応えを感じれば今後オープン化していくことも検討しています。 ■VTuber、クリエイター、ファン、誰もが楽しめるエコシステムを。 ――そこでCCMCさんが担当されるのは監修やパブリッシングのサポートでしょうか。 加持氏: 場合によってはローカライズのサポートも担当します。実は、タイトルによってはタレントさんのボイス協力も行わせていただいています。 ――本人のボイス収録ですか! 加持氏: 『Idol Showdown』をリリースした頃、ゲーム中のボイスは基本的に配信から切り取ったものでした。しかしタレント側から「もっとちゃんとしたものがいい」という声を頂くことがあったんです。 ――VTuberさんからの提案で、ですか。 加持氏: もともとVTuberという文化自体、クリエイター同士が支え合う文化がありますからね。 もちろん「公式がどこまで協力するか」という線引きは難しいですが、タレントさんの同意がある場合は協力させていただいてます。 ――タレントさん側からのゲームへの評判はどうでしょうか? 加持氏: 自分が出るゲームというのは、常日頃から配信のネタを探しているタレントにとっては非常に盛り上がるコンテンツです。 ファンも、クリエイターも、そしてタレント自身も楽しめる、全員がWin-Winなものが出来ているなと感じます。 ――holo Indieではクリエイター、タレントがそれぞれ喜べるモノづくりをされていると感じます。それを遊ぶユーザーからの反響はどうでしょうか。 畠野氏: レビューベースでの意見になりますが、基本的にはやはり楽しく遊んでいただけているなと思います。 キャラゲーとなるとファンの方から辛い評価を受けることもあると思いますが、holo indieでは今のところ厳しい評価はまだありません。これはクリエイターのみなさんが愛を持って制作してくださっているからだと感じますね。 ――クリエイターである前にひとりのファンでしょうからね。開発者に愛があるという前提は強みだと思います。 畠野氏: IPモノで不評なゲームを見てみても、多くの原因はキャラへの理解度や愛が低いことだったりすることが見受けられます。。 加持氏: 実は、最近では理解度が高すぎて困るパターンもあるんです。 どういった解釈を認めるかという(笑)。 ――解釈ですか(笑)。 加持氏: 開発者さんによっては、タレントへの「こうあってほしい」という解釈がノってくるんです(笑)。 例えば特定のキャラとキャラが百合的な関係になっている場合などですね。 もちろん完全な二次創作ではなくて実際の配信上でのやりとりを基にしたものですが、そういった解釈をholo Indieとしてどこまで許容するかは難しい問題です。 ――公式の立場ですから、どうしてもセンシティブな問題になってきますね。言い方を変えれば解釈に”お墨付き”を与えることにもなる。 加持氏: ここは難しいところで、今はまだ手探りの状態かなと思います。どうするべきかを決めながら、少しずつ進めていくべきポイントですね。 ――キャラの描き方に自由度を持たせるという点で言えば、自社で開発するのではなくクリエイターを公募するというのはむしろ正解だったかもしれませんね。 畠野氏: もともとVTuber文化は配信者とクリエイターのボトムアップで成り立ってきたと思いますし、それはゲームでも同じことが再現できると考えています。 これがベストな選択肢かはまだ分かりませんが、現状はベターな選択ではあったかなと。 ――VTuberと相性のいい、理にかなった形態だと思います。 畠野氏: ファンが生み出すコンテンツが多いことこそが、ホロライブの強みのひとつだと考えております。実際、コミケなどのイベントでも多くのサークルでホロライブのIPを見かけます。 ファンの方が生み出すこの勢いを、我々としても後押ししていきたいですね。。 ――クリエイターの意欲を引き出す良いエコシステムだと思います。反響が良いのもうなずけます。 加持氏: ありがたいことに、本当に良い反響しか見ないんですよね。この前なんて、普段辛口でゲームレビューをされている配信者さんにもべた褒めされているのを見つけてしまって、少し怖いぐらいですよ(笑)。 畠野氏: 逆に怖いですよね。何か裏があるのかって考えてしまう(笑)。 ■より多くの人を巻き込んでいく ――様々なクリエイターが参加しているholo Indieですが、今後の展開についてはどうお考えでしょうか? 加持氏: 今後の展望として、クリエイターが参加しやすい環境作りをより進めていきたいと考えています。 具体的には、一部のアセットに関してはオープンに提供するとか、そういったことを検討していますね。 ――アセットと言うと、キャラクターモデルなどでしょうか。 加持氏: タレントの3Dモデル等はどこまで提供するかまだまだ議論が必要です。 それ以外のところで言うと、楽曲等の音楽データですかね。 ――ホロライブさんと言えば楽曲はやはり外せませんね。 加持氏: まさしく、楽曲を使いたいという方が結構いらっしゃるんです。ゲーム制作において楽曲を一から作るのは大変ですが、そこにホロライブの楽曲を入れることが出来れば、ファンゲームとしてある程度仕上がるかなと。 ――自社の楽曲であれば権利上の問題もクリアしやすいと。 加持氏: ただ、やはり著作権に関する手続きは複雑で難しいなと感じますね(笑)。 ――権利の問題に関して言えば、実況配信等の権利はどうでしょうか。クリエイターさん側からNGが出ることはないと思いますが……。 加持氏: 実はCCMCのホームページでもholo Indieの配信ガイドラインを既に公開しており、ホロライブのタレントはもちろん、他の配信者の方にも配信して頂けるように整備しております。 ホロライブ自体が各ゲーム会社さんに配信の許諾をいただくことで、日々楽しいコンテンツをお届けできているので、この点についてはできる限り配信制限は設けない方針です。 何より、クリエイターさんにとってもホロライブに限らずいろいろな方に遊んでもらうのが一番だと思いますからね。 ――それは当然そうですよね(笑)。 加持氏: クリエイターさんの中には、そもそも「好きなタレントにやってもらいたいからゲームを作る」という方もいるので。 ――これからholo Indieの規模が拡大すれば、海外のクリエイターも多く参加するのではないでしょうか。 加持氏: 海外のクリエイターさんやファンを増やしていきたいという思いは常にあるので、より多くの方にお力添えを頂ければいいなと思います。 ――海外というと、やはり北米でしょうか? 畠野氏: 直近だとアニメエキスポやAnime NYCでの展開もありますし、やはり北米の市場は狙っていきたいですね。 また、最近では東アジアへも視野を向けています。距離も近くコラボカフェやポップアップショップなどのイベントを凄く盛んにやっている地域ですし、日本のオタク文化も浸透しております。 ――地理的にも近いですし、確かに日本人とも趣味の感覚が似ている気がしますね。 加持氏: holo indieのゲームの場合、海外はどちらかというとタレントよりも開発者さんのファンが遊んでくれている印象です。 そうしたファンコミュニティが、ホロライブというブランドそのものに目を向けてくれるようになると嬉しいですね。 ――全体の割合から見て海外のクリエイターさんはまだ少ないといった状況でしょうか。 加持氏: そうですね。それと、作品のクオリティに振れ幅があるのでどれからリリースするかで悩むことがあります(笑)。 あまりにもクオリティの高い作品から出すと後が続き辛いという問題があるので、リリースの順番には気を遣いますね。バランス良くしていければなと思います。 ――是非今後とも、ゲーム業界を盛り上げて欲しいと感じます。本日はありがとうございました! 加持氏・畠野氏:ありがとうございました。 好きなVTuberのためにゲームを作る……それはある種、究極的な愛の形だ。そして、優れたゲームを生み出すために最も必要なものもまた、この愛なのだ。 もしかすると、このプロジェクトから生まれたゲームが、今後のゲーム業界全体を揺るがす名作をも生み出すかもしれない。今回のインタビューからは、そのような明るい展望を感じた。 クリエイターたちの愛をサポートするべく生まれたholo Indie。 この取り組みが、VTuberやクリエイター、ファン、そしてゲーム文化やVTuber文化全てをつなぐ大きな輪となることを願っている。holo Indieのこれからの展開にさらに注目したい。
電ファミニコゲーマー:
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