【甲子園熱戦レポート│13日目】走るも走ったり、守りも守ったり――関東第一の勝利を呼び込んだ奇跡のバックホームの“伏線”<SLUGGER>
その刹那、両監督は確信を抱いた。 神村学園・小田大介監督は言う。 「『回してくれ、返ってこい』と思いました。回すべきだと思う。よく走ってくれた。あれがボール1個分それていたら多分セーフ」 一方の関東第一・米沢貴光監督は、三塁走者の様子を見て勝利を確信した。 「外野手が捕球した時と走者が三塁を回った時の感じでは刺せるなと思いました」 関東第一が2対1でリードして迎えた9回表のことだ。試合は1点を巡る攻防を経て関東一が逃げ切るか、神村学園が追いつくかという展開だった。2死、一、二塁、バッターボックスは8番・藤田侑駿に代わる代打・玉城功大が打席に立っていた。 関東第一のエース坂井遼が140キロ後半のストレートを中心に投げ込んでいくが、玉城が粘り、両者の息詰まる攻防が続いた。5球目、、坂井のストレートを捉えた玉城の打球はショートのやや右を鋭く抜けていった。 二塁走者が三塁を回ってホームへ突進する中、関東第一の中堅手・飛田優悟は激しくチャージをかけてボールを処理すると、矢のような送球をキャッチャーにノーバウンドで送球。バットに当たってからホーム返球はタイムにして5秒61のどストライク。間一髪でアウトになり、ゲームセットなった。 通常、二塁からホームへの生還は6.80秒から7.00秒がデッドラインとされている。2死であること、2ストライクだっためにバットを振りにいった時点でスタートが切れたことを指し引いても、走者は恐ろしいほどのスピードで走っていたことになる。それほどのハイレベルな攻防だった。 小田監督は、走塁は神村学園が重点的に取り組んできたことの一つだと話す。 「ワンヒットでホームに生還できないと好投手からは点が取れないので、その練習は一生懸命やってきたつもり。最後も練習通りやってきたことを発揮してくれたと思う」 思い返すと、神村学園が1点を制した4回表の場面も、センターとランナーの勝負だった。2死二塁のチャンスから、6番・上川床勇希が二遊間の横を破るセンター前ヒットを放ち、二塁走者の正林輝大は好走塁を見せて生還している。 しかし、このシーンを見逃さなかったのが米澤監督だった。この後、センターの飛田にこう声をかけていたのだ。 「甲子園は打球によって少しズレたりする時があるんですけど、4回の場面では飛田のチャージが弱いと思ったので、『もっと思いきって行きなさい』っていう話しました」 9回表の場面はこの得点が伏線になっていたのだった。
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